
2018年から2022年までインド・チェンナイの会社で働き、2022年から中国・広州で働いているTATSUYAと申します。
コロナが明けてから中国経済が不調な一方、インドは堅調に成長しているため、多くの人から

インドが中国を追い越す可能性はあると思いますか?
と質問されます。
最近では、多くの日系企業がインドに関心を持ち始めており、インドが中国を超えるのではないかと期待されています。
しかし結論から言うと、私はインドが中国を追い越すのはかなり難しいのではないかと感じています。
そこでこの記事では、インドと中国の両方で働いた経験のある私が、インドが中国を追い越す可能性について感じたことをご紹介します。
Contents
インドの人口と経済成長率は中国を超えている
どうして「インドが中国を追い越す」と言われているのでしょうか?主な理由は以下の3つでしょう。
- インドの方が経済成長率が高い
- インドの人口が中国を超えた
- 少子高齢化に直面する中国と異なり、インドは平均年齢が若くまだまだ人口が増加する
まだまだ経済規模は中国の方が格段に大きいですが、確かに経済成長率は既にインドが中国を追い越しています。
中国 | インド | |
2023年名目GDP(億ドル) | 177,948 | 35,676 |
実質GDP成長率(IMF予測) | 4.8% | 6.5% |
参考サイト 外務省 経済局国際経済課 主要経済指標
しかも、中国は独裁国家なので経済成長率が水増しされていて、実際の成長率はもっと低いのでは?と疑う声も多いです。
2023年の4月頃、インドの人口が中国を追い越したことがニュースになりました。
インド | 中国 | |
人口 | 14.5億人 | 14.2億人 |
参考サイト 人口順の国のリスト(2025年2月10日時点)
また平均年齢もインドは28歳、中国は39.5歳と言われ、少子高齢化が迫る中国と比べて、インドはまだまだ人口が増えていくと言われています。
参考サイト 中国との差が際立つインド株の強さ:インド投資にも政治リスク
共産党による一党独裁国家である中国に対して、インドは全14億人に対して普通選挙を実施する民主国家です。
また、日中関係は課題が山積みですが、インドとは関係が良好ですから、日本人としてはインドに頑張って欲しいという期待もあると思います。
しかし実際には、インドは中国とは事情が全く異なります。
ここから、インドが抱える問題をご紹介します。
インドの問題1:インフラが脆弱すぎる
インドは、とにかくインフラが酷いです。
道路は穴だらけ、停電も頻発しますし、電車もスピードは遅くノロノロ運転、インターネットが繋がらなくなることも日常茶飯事です。
コロナ禍のときは、ワクチンを冷凍したまま運ぶのが難しいので、冷凍が必須なファイザーやモデルナのワクチンは運べず、冷凍しなくても良いアストラゼネカのワクチンが主流でした。
逆に、中国はインフラの整備状況が極めて良好です。
中国は2000~2010年代にかけて飛躍的な成長を遂げましたが、凄まじいインフラ投資を行いました。
すでに中国が2011年~13年の3年間で生産したセメント量は、1901年~2000年の101年間にアメリカで生産した量を超えているという――。
中国の面積は日本の26倍ありますが、今の中国は全国どこへ行っても日本と変わらないピカピカの道路や鉄道が整備されています。
2006年に初めて中国へ行った時は、中国でもデコボコな道路を見かけましたから、隔世の感があります。
インドへ遊びに来た還暦に近い中国人の知人が
インドは40年前の中国みたいですね
と言っていました。
今の中国では停電なんて起こりませんし、全国どこでもキャッシュレスが浸透し、現金は殆ど使用されていません(参考記事:【2024年】中国のキャッシュレス電子決済状況まとめ【日本人の対策】)。
中国は一党独裁国家ですから、道路や鉄道を作る時に住民を簡単に強制立ち退きさせることができるのです。
多くの国で、経済発展初期のインフラ開発段階では独裁体制を取ります。これを開発独裁と言います。
韓国の朴正煕政権や台湾の蒋介石・蔣経国政権なども開発独裁にあたります。富国強兵を唱えていた日本の明治政府も開発独裁と言えるかも知れません。
韓国や台湾は、独裁政権が経済発展初期のインフラ整備を行い、経済が成長してきたタイミングで民主化しました。
中国でも鄧小平が1980年頃から開発独裁を実施しました。経済成長したら民主化すると思われていましたが、中国は一向に民主化する気配がありませんね。
一方インドは、民主化するにはまだ早すぎて、本当は開発独裁政権が強権的にインフラ整備をした方が良い段階と言えます。
しかしインドは「非暴力不服従」を訴えたガンディーや、その継承者であるネルーの崇高な理念の下に建国された国であるため、一貫して民主手続を重視してきました。
その結果、土地の買収に時間がかかり水道や電気などのインフラの整備が遅々として進まないという問題が発生しています。
インドの理念は素晴らしいのですが、生活の基本インフラが整備されず、国民の貧困が放置されるという本末転倒な状況になっています(どちらが良いかは一概には言えませんが)。
インドのインフラ整備の問題を象徴しているのが新幹線です。
日本は1964年から2024年の約60年をかけて、約3000キロの新幹線を整備しました。
中国は、2007年に高速鉄道の営業を開始し、2022年末までの約15年で総延長が4万キロ(日本の10倍以上!)になりました。
それに対してインドは、インド初の高速鉄道となるムンバイ~アフマダーバード間の約500kmの高速鉄道に10年かかっています(北海道新幹線やリニアはもっとかかってますが…) 。
インド政府は2017年着工、2027年開業としていますが、やはり土地の収用に時間がかかったようです。
現時点で開業予定が遅れる予定はないそうですが、インドでは締切直前になって「やっぱり遅れます」と報告するのが平常運転なので、実際のところいつになったら開業するのか分かりません。
インドは本当に遅くて古い鉄道が多く、扉を開けっぱなしのまま走るので毎日死人が出ているような状況です。
一方の中国は毎年3000キロ近い新幹線を新規開業しているので、インフラ整備のスピードがインドとは段違いです。
ここで中国とインドの平均的な駅の様子をご紹介します。まずは中国の鉄道のホームと待合室です。
中国の駅はどこも大きくて新しいです。昭和に建てられた駅もありますが、綺麗に整えられています。
続いてインドの鉄道のホームと待合室の写真をご紹介します。
これはわざわざ中国の綺麗な駅とインドの汚い駅を選んで比較しているわけではなく、どちらも平均的な駅です。
個人的にはインドの鉄道の方が旅情があって好きなのですが、インドのインフラは中国にだいぶ差をつけられているのを感じて頂けたのではないでしょうか。
もちろん中国は中国で問題があります。
中国は日本とは比較にならない規模の大規模な公共投資をしており、例えば国鉄の負債総額だけで120兆円もあると言われています。
これは日本の国鉄が破産した時の負債総額37兆円の3倍以上!になります。
しかも、まだまだ中国は線路を延伸しており、チベットの山奥やタクラマカン砂漠の真ん中など、「誰が乗るの?」と思うド田舎にもどんどん線路を敷いています。
中国では都市鉄道も、日本でいうと東京から小田原、大阪から姫路くらいの距離を地下鉄で作ってしまう有様なので、建設費も維持費も恐ろしいことになっているはずです。
日本で赤字ローカル線の廃線問題をニュースで見ているので、中国の鉄道の経営状況は非常に心配です。
インフラの整備が弱すぎるインドと、インフラが過剰すぎる中国は両極端です。
中国とインドはあらゆる点で常に両極端で、足して2で割ったらちょうど良いのにな・・・といつも思います。。。
インドの問題2:識字率が低い
インドは平均的な教育水準がまだまだ低いです。
JETRO(日本貿易振興機構)が行った2021年の調査によると、インドの初等・中等学校に通う児童・生徒数は約2億5,000万人です。初等・中等教育にアクセスできる人口は増えてきたものの、高等教育への進学率は依然として25%程度にとどまっています。
また、総務省によると2021年のインドの識字率は、全体で74.4%、うち男性82.4%、女性65.8%となっています。識字率は女性の方が低く、また格差の項目でも述べた貧困層の多い州で識字率が低くなっています。
識字率が75%ということは、インド人の4人に1人は文字が読めないということです。
確かに、これは私もインドで生活していて実感しました。
トイレ掃除をしている人や、メイドなどは文字が読めない人が多かったです。
どうしてインドの教育がここまで酷いのかというと、恐らく政府の力が弱いのが原因なのではないかと思います。
一方、今の中国では殆どの国民が文字を読み書きできます。
しかしその中国も、戦後すぐの頃は識字率が20%くらいで、80%は文盲だったそうです。
新中国成立之初,我们的教育是一个怎样的状况呢?一组数据可见一斑:
全国5.4亿人口中,文盲率高达80%,小学实际入学率不到20%,高等教育在校生人数只有11.7万人,(中略)1949年至1965年的10多年间,共有近1亿青壮年文盲脱盲,文盲率迅速下降至38.10%。
新中国が始まった頃、私たちの教育はどのような状況だったのだろうか。 あるデータがそれを示している。
5億4,000万人の人口のうち、文盲率(非識字率)は80%に達し、小学校への就学率は20%以下、高等教育への入学者数はわずか11万7,000人だった。
「新中国が始まった頃」というのは、今の中国が建国された1949年頃を指します。
当時の中国の状況は現在のインドよりも遥に酷かったようですね。
明治時代の中国人留学生が、日本人の識字率の高さに驚いている記録が残っています。
日本には識字者が甚だ多く、車夫でも新聞を読み外国のことをよく知っている。日本がロシアに打勝ってからは、ほかは勿論、車夫でさえも中国人を軽蔑している。
しかし、2022年時点では中国の文盲率(非識字率)は2.67%まで下がりました(十年来全国普通话普及率提高至80.72% 文盲率降至2.67%)。
なので、インド政府も本気を出せば国民の識字率を上げられるはずです。
インドは戦後に大きな戦争があったわけでもないので、貧困層への教育が放置されているのは単純にインド政府の問題だと私は思います。
これは特定の政治家が悪いというより、政治体制や国全体のメンタリティの問題が原因なので、根が深すぎる問題ですが。
国民の識字率の向上が中国にできてインドにできない理由は
- インドの金持ちは貧乏人を低賃金でこき使えた方が都合がいい
- インドは歴史的に中央政府の力が弱く、内部統制が取れていない
- インドの政治家は自分が選挙に勝つことばかり考えている
だろうと私は感じています。
とにかくインドは政府の力が弱すぎて、統制がグダグダで物事が何も前へ進みません。
私は多くの中国人から
14億人で民主主義なんて無理だ。民主主義国家の政治家は選挙に勝つことしか考えていない。中国には選挙の心配をする必要がないから、中国政府は長期的な視点で国民の生活向上を真剣に考えることができる。だから中国の政治体制は素晴らしいんです。
と耳にタコができるほど何度も聞かされました。
もちろん日本人の私は「だから中国の政治体制が素晴らしい」とは思いません。
しかしインド政府の弱さとインドの絶望的な貧困状況を見ていると、確かに中国人が言う「強い政府が大事!」という考え方も一理あると考えさせられます。
インドの腐敗・汚職は底なし沼で、確かに「インドの政治家の多くは自分が選挙に勝つことしか考えていない」と言われても仕方ない状況な気がします。
もっと根深い話をすると、インド人は中国人と比べて「みんなで国を豊かにするぞ!」というマインドが非常に弱いです。
中国は、「世界の中心の国」という意味の国名からも分かる通り、もともと自分達こそが世界の中心であって、歴史的には中国は欧米よりも先進国で、アメリカやヨーロッパが世界のリーダーになっている今の国際社会はおかしいと思ってます。
もともと自分達が世界の中心だったはずなのに、19世紀のアヘン戦争以降は欧米や日本からボコボコにされたので、中国をトップとする200年前の世界秩序に戻したいという潜在意識があるようです。
※日本では知られていませんが、19世紀前半まで確かに中国はGDPが世界一位で、日本はもちろん欧米からも一目置かれていました。日清戦争で日本に負けて以降、「小国の日本にすら負けるなんて、中国は大したことないじゃん」と、欧米から見下されるようになってしまいました。
なので中国人は、「国全体で一丸となって豊かになり、欧米を追い越して中国が再び世界の中心になってやる!」という意識が本当に強いです。
最近の中国は不景気なのでコロナ前に比べて弱気になっていますが、「自分達が世界の中心に返り咲くべきだ」というマインド自体は簡単には変わらないと思います。
それに対してインド人は

今やアメリカのグローバル企業のCEOはみんなインド人だ。だからインドが世界を支配しているようなものだ。
などと言うのですが、インドからは国民全員で豊かになろうという気迫が全く感じられません。
昔のインドはイギリスの植民地だったので経済的には搾取されていましたが、イギリスによってインドの文化や伝統が破壊されたわけではありません。
インドは中国と異なり、外国の軍隊に国内を荒らされて大勢の庶民が殺されるようなこともなかったので、欧米に対する対抗心も中国ほど強くなく、インド人には「自分達こそが世界一になるべきだ!」という意識は特にないようです。
金持ちのインド人と貧乏なインド人はまるで別世界に住んでいて、お互いに住んでいる世界が違いすぎるので興味がないので「共に豊かになろう」という発想にはならないようです。
インドの問題3:英語ができないとキャリアアップできない
インドには英語を話せる人が10%しかいません。
インド人は英語ができるといわれているが、一説によると人口の 10%、約1億 2500 万人(片言を含めると3億人)が英語を話すらしく、米国に次いで世界第2位の英語大国である。

10人に1人も英語ができるの?日本人よりも多いんじゃない?私には友達が10人いるけど、英語ができる人なんて誰もいないよ
と思った方もいるかも知れませんが、インドでは英語ができなければ給料の良い仕事に就くことができません。
インドの高等教育は全て英語で行われ、ITエンジニアや医師、会計士など収入の高い仕事に就いているインド人は全員、英語圏のネイティブと英語で対等に議論ができます。
私もインドで会計関係の仕事に従事していたので、会計や税務のセミナーへ参加することもありましたが、全て英語でした。
逆に言うと、英語が話せないという人は貧しいままということです。
インドで働いていた時、英語を全く話せない日本人駐在員を見たインド人が「ホワイトカラーの仕事してるのに英語を話せない人なんているんだね(そんな人間が地球上に存在するなんて知らなかった)」とカルチャーショックを受けていました。
一方の中国は、今では識字率がほぼ97%以上に達しています。私は中国で文字を読み書きできない人には会ったことがありません。
しかも中国は日本と同じく、ビジネス言語が母国語(中国語)なので母国語だけでキャリアアップが可能です。
中国には日本人と同じく、英語ができなくても高い給料を稼いでいる人達が大勢います。
インドの問題4:言語がバラバラ
インドの言語状況についてはインドに住んで感じたインドの言語状況という記事でまとめたのですが、北インドでは広範囲でヒンディー(語)が話されているのに対して南インドでは州によって言語がバラバラです。
ハイスペックなインド人同士なら英語で意思疎通が可能ですが、英語ができない層のインド人同士は州を超えると言葉が通じないという問題があります。
中国も大昔は省によって言語がバラバラで、中国人同士でも出身が違うと言葉が通じないことがあったようですが、戦後に共産党政権が成立してからは標準中国語が全国へ強制され、今ではほぼ全員が標準中国語を理解できます。
中国の公用語として定められた標準中国語「普通話」の普及率が80・7%に達した。「三区三州」(注)の極度貧困地区は61・6%となっている。
チベットやウイグルの奥地へ行くと中国語を話せない人もいるそうですが、約9割いる漢民族で標準中国語を話せない人はいないはずで、私は中国語を話せない中国人には会ったことがないです。
一方、英語やヒンディーを理解しないインド人には大勢会ったことがあります。
言葉がバラバラということは、工場に集めた工員同士で会話ができず仕事が回らなくなる可能性があります。
もちろん最近はテレビやYouTubeの普及もあり、多くのインド人がヒンディーを理解するようになったとは聞きます。
しかし私が住んでいたタミルナドゥ州はヒンディーへの抵抗感が強く、同僚でもヒンディーを理解できない人達が何人かいました。
インドの首相の演説はヒンディーなので、自国の首相の演説を聞くのに通訳が必要だということです。
タミルナドゥ州のヒンディーへの嫌悪感は、広東地域(特に香港人)の人達が広東語を誇りにして、北京からの標準中国語の押し付けを嫌うのと似ています。
しかし中国政府はインド政府より強いので、広東省では有無を言わさず標準中国語が強制されています。
インドの問題5:カースト制度の名残がある
インドではカーストが原因で従業員同士がトラブルを起こすので、マネジメントが難しいと言われます
私はインドの会社で4年間働いていて、カースト制度の影響を感じたことは一度もありませんでした。
私がカーストに対して感じたことはカーストの見分け方と差別【インドに3年住んで感じた実態】という記事にまとめています。
インド人の同僚に「面接に来たインド人の名前や身なりを見ただけでカーストは分かるの?」と聞きましたが、同僚は「たまに名前からカーストが分かることもあるが、滅多に分からない」と言っていました。
私の仕事は会計事務所だったので、そもそも全員が英語と会計を理解するハイスペック層ばかりだったからかも知れませんが、工場を持つ取引先や友人の日本人と話していても、カーストが原因でトラブルになったと聞いたことはありませんでした。
ただ、インターネットで調べるとカーストに基づく従業員同士のトラブルで苦労している日系企業の例が色々出てくるので、今でも根強く残っているのかも知れません。
私自身、(カーストと断定して良いか分からないのですが)インド人の感覚が日本人や中国人と違うと感じることは多々ありました。
私がインドへ来て最初に面食らったのは、不動産業者に家の紹介をしてもらったときでした。
ある家へ行った時、部屋は4階にあったのですが、私と不動産業者のインド人(太っていました)はエレベータに乗りました。
しかし、付き人のインド人(瘦せていて裸足でした)は猛ダッシュで階段を上り、私達が4階へ着いた時には部屋の照明とファンを付けて、息を切らして汗だくになりながら私達を待っていました。
部屋を紹介してくれた不動産屋は
この部屋はこんな感じですから。では次へ行きましょう。
と、その部屋には10秒くらいしか滞在せず、また私達はエレベータで下へ降りました。
付き人のインド人は、また全ての照明とファンを消し、猛ダッシュで階段を降りていきました。
車へ戻ると、別のインド人の付き人が車の外で水のペットボトルを2本持って(炎天下の下、車の外で)待っており、私と不動産業者に1本ずつ渡しました。
江戸時代の丁稚奉公をリアルタイムで見せられた感覚で、とても衝撃を受けました。
カーストの影響かどうかは分からないのですが、インドは「職業に貴賎なし」という感覚が驚くほどなく、清掃員やメイド(ハウスキーピング)、ドライバーなどの職業は明らかに格下に見られていました。
中国も、清掃員やコンビニ店長のような仕事は格下に見られがちなのですが、少なくとも「同じ人間として対等に接している」という感じではあります。
それに対してインドでは、同じ人間として対等に扱われていない印象を受けました。
香港ではフィリピン人やインドネシア人のメイドが大勢働いているのですが、香港人の友人によると最も不人気なのがインド人の雇い主だそうです。
日本人や中華系はメイドのことも人として対等に接しますが、インド人は奴隷を扱うように接するので嫌がるメイドが多いそうです。
インドのドライバー(運転手)の待遇もメイドと似たようなものです。
インドでは日本人が車を運転することはほぼないので、レンタカーを借りるとドライバーもセットで付いてきます。
郊外のお客さんを丸1日訪問する時、朝10時に到着してから夕方までドライバーは車で待っているのですが、冷房は切らなければならないようで、35度の炎天下の中、窓を開けた車内で何をするでもなくボーっと待っていました。
ドライバーに「〇時に戻ります」と伝える必要もなく、とりあえず待たせておいて、ドライバーはいつ戻ってきても良いように車中でスタンバイしている必要があります。
ドライバーとは丸1日契約しているのでインドの感覚では何も問題ないのですが、中国では様子が違いました。
中国の場合、多くのドライバーはレンタカー会社の社員ではなく個人事業主であるという事情もインドとは異なりますが、客先に着くと「何時に戻るんだ?」と必ず聞かれます。
インドの場合、格下であるドライバーが格上である客に対してそういう質問をすること自体が失礼に当たるのかも知れませんが、中国では客とドライバーは対等です。
「とりあえず待っててくれ」などと理不尽なことを言っても、どっかへ行ってしまうでしょう。
で、「夕方に戻る」とドライバーに伝えると、ドライバーは夕方まで勝手に釣りへ行ったり、街角で麻雀やトランプをしたり、もしくは配車アプリを使って副業して小遣い稼ぎをしたり、自由にしています。
この中国とインドの雰囲気の違いは伝わるでしょうか?
カーストが原因だと断定して良いかは分からないのですが、インド社会から厳然とした上下関係を感じるのは間違いないです。
インドの方が中国よりも上下関係が厳しく、細かい人間関係に配慮しなければならないので、確かに工場のマネジメントは中国よりもややこしそうです。
高いカースト出身の部下が低いカースト出身の上司の指示を無視するなどということも起こりそうです。
中国人は上下関係よりも利益重視なので、メンツと待遇にさえ配慮していれば、インドほどのややこしい問題は起きづらいでしょう。
中国社会も日本や韓国、インドと同じように上下関係が厳しいと思っていたのですが、実際に中国へ来てみたらイメージと異なり、どちらかと言うとアメリカ型のフラットな社会に近い印象です。
この点については改めて別の記事でご紹介したいです。
インドの問題6:製造業が弱い
ここまで書いてきたことは全て伏線です。
- インフラが弱い
- 識字率が低い
- 言葉がバラバラ
- カーストの名残で人間関係が複雑
するとどうなるか?製造業が成長できません。
頻繁に停電したり、スタッフ同士の協力が難しい国で製造業をするのは恐ろしいですよね。
そして、文字が読めなければ機械の操作マニュアルも社内規程も読めませんから、貧困層は製造業で働くこともできません。
インドの製造業の弱さを最も象徴した例がアップルです。
アップルはiPhone生産の95%を中国に依存していますが、ゼロコロナ政策末期の2022年10月には鄭州の工場で新型コロナの感染拡大に端を発する騒動が起き、稼働率が低下しました。
チャイナリスクをヘッジするために、生産の一部をインドへ移したところなんと不良品率が50%だったそうです。
インドの大手財閥タタ・グループが運営する筐体(きょうたい)工場では、製造される部品のうち、iPhoneの組み立て工場に納品できる合格品が約半分にとどまっているという。
50%という歩留まり率は、不良品率ゼロを目標とするアップルの方針とかけ離れている。
"Made in India"の製品なんて見たことないですよね?
実際は、私達が使っているソフトウェアのプログラムがインドで書かれていることが多く、インド製のソフトウェアは世界中で使われていると言えますが、製造業の製品でインド産は見ないはずです。
インド政府は2014年に「メイク・イン・インディア」を掲げてインドでの製造業を盛り上げようとしていますが、やはり成果は出ていません。
GDPに占める製造業比率を2014年当時の14%から、将来的に25%まで引き上げると公言している。しかし、10年近く経った現在でも、その比率は14%からほぼ変わっておらず、大きな成果は表れていない。
中国共産党の政策に振り回されるのがチャイナリスクだとすると、みんなが一生懸命やってるのに意味不明な問題が多発するのがインドリスクです。
インドは悪気がないぶんタチが悪いとも言えます。
例えば、この写真はあるインドの日本食レストランがメニューをリニューアルした時のものですが、さすがに日本語がめちゃくちゃ過ぎます。
左上はどう見ても冷やし中華ですが、サーモンカツ丼と書いてあります(英語は正しい)。
機械翻訳のソフトを使ってもこういう翻訳にはならないし、悪気があるとも思えないし、どうすればこんな想像の斜め上を行く間違いが起こるのか全く見当がつきません。
日本人の常連客はたくさんいるのだから、印刷する前にちょっと確認してもらえば良かったのにと思います。
中国でもメチャクチャな日本語は見かけますが、それは中国人客しか来ないような店や中国人しか買わないような商品の場合です。
日本人客だらけの日本食レストランで、日本人にこの日本語メニューを出すことは中国では流石に有り得ないです。
インドでは毎日朝から晩までこのような意味不明なトラブルのオンパレードです。

どうしてこういう間違いが起きるんだ?原因究明と再発防止策を徹底しろ!
と伝えたところで

No problem sir, the menu has already been corrected, take it easy.(問題ないですよ。もうメニューは修正されましたから。落ち着いて)
と満面の笑みで朗らかに回答されて終わりです。
また同じ間違いをしたら、また同じように修正すれば問題ないということです。
悪気がなさ過ぎて憎めないところもあり、日本人の方が根負けするので改善は難しいです。
上司の機嫌が悪いと神妙な顔をしていますが、インド人は鋼のメンタルを持つと言われており、なんで自分が怒られているのか理解してもらえないことも多いです。
インドのチェンナイに住んでいた時、インドでは極めて珍しい中国人が経営する中華料理店があったのですが、店主の中国人から

中国人の俺達ですらインド人スタッフは管理しきれないのに、よく日本人が耐えてるよな
と言われたことがあります。
私は日頃から「中国ではナメられたら負け、インドではイライラしたら負け」と言っているのですが、中国は政府の意図を読めればまだ対策の打ちようがあります(中国では「上に政策あれば下に対策あり」と言われます)。
しかしインドでは意味不明な問題がランダムに起こり続けます(詳しくはインドで経験した人生観が変わるレベルの仰天エピソード5選の記事でご紹介しています)ので対策の打ちようがありません。
インドでの対策と言えば、諸行無常の現実を受け入れ、あらゆる期待や執着を捨てて悟りを開くしかありません。まさにインドは仏教誕生の国という感じですね。
インドは国民の教育水準やインフラなど国家の根幹となる土台がガタガタですから、外資系企業もインドに工場を作ろうという決断はしづらいはずです。
インド政府が補助金で外資を誘致したところで焼け石に水の対策にしかならず、製造業が発展できないんですね。
多くの国(欧米も日本も中国も)では、農業→工業→サービス業の順番に発展します。
これを「ペティークラークの法則」と言います。
多くの国では工業が発展し始めると、農村にいる食い扶持がない人(余剰人口)が都会へ出てきて工場で働き、豊かになっていきます。
例えば日本の場合、戦後の高度経済成長期に「金の卵」と呼ばれる若い人たちが東北から汽車で上野駅へ来て、東京の工場で働きました。
中国でも、内陸部の農村に住んでいる人達が沿岸部(上海や広東省など)へ来て工場で働き、豊かになりました。
普通の国はこのように成長していくのですが、インドにはペティークラークの法則が当てはまりません。
インドは製造業をスキップして先にサービス業が発展してしまいました。
いわゆる「ペティー・クラークの法則」がインドには当てはまらなかった。インドのGDPは、第1次産業の割合が減少する代わりに第2次産業の割合が増加するのではなく、第1次産業の割合が減少するとともに第3次産業の割合が伸びている
インドはコンピューター2000年問題の頃に欧米から注目されました。
英語と数学が得意な優秀なインド人たちが欧米から注目され、安い給料で正確なプログラムを書いてくれるということで、ITのアウトソーシング先として成長しました。
その結果どうなったかと言うと、英語とプログラミングができる優秀な人達だけが豊かになりました。
製造業の場合、工場では大勢の労働力が必要になるので、学歴が低い貧困層にも仕事が与えられます。
しかしITの場合、スキルがない人達には任せられる仕事がないので、英語とプログラミングができる優秀な層だけ豊かになり、それ以外の貧困層は放置されたままになります。
経済成長著しいインドで、国際貧困ラインを下回るような悲惨な生活をしている人達が大勢いる理由がこれです。
詳しくはインドに1年住んで感じた、インド貧困層の想像を絶する生活実態の記事で書きました。
貧困層が取り残されている状況は、中国とインドの都市化率の違いにも現れています。
都市化率とは、都市人口の割合です。
2021 年時点における中国の都市化率は 65%に達している。これに対し、インドの同時点の都市化率は依然 35%にとどまっており、印中は好対照をなしている。
中国は農村の貧困層が都市部の工場へ出稼ぎに行っているのですが、インドは製造業が弱いので都市化が進んでいないことが分かります。
これは私が中国とインドの田舎を歩き回った実感とも一致しています。
こちらの写真のような中国の田舎へ行くと、若い人は殆どおらず、お年寄りしか見かけません。
場所によっては、お年寄りと子供がいる場合もあります。親世代が出稼ぎに行って、祖父母が孫の面倒を見ているようです。
しかしインドは、どこまで田舎へ行っても10-20代の若い人達が大勢いて、暇そうにしています。
インドで、お年寄りしかいないような農村は見たことがありません。
製造業が弱いので、英語やプログラミングができないと都市へ出ても仕事がないのでしょう。
インドの問題7:インドは14億人の市場ではない
「14億の市場」と言われますが、確かに中国は14億人の市場かも知れません。
中国の格差も日本よりは凄まじいですが、貧困層でも文字は読めますし、スマホやキャッシュレス決済を使っています。
中国の街角では(最近だいぶ減りましたが)たまにホームレスが物乞いをしていますが、彼らも首からQRコードをぶら下げています。
中国では物乞いもキャッシュレス方式なのです(詳しくは【2024年】中国のキャッシュレス電子決済状況まとめ【日本人の対策】の記事をご覧ください)。
一方、インドの貧困は底なしで、貧困層に購買力がなく、とても「14億人の市場」とは言えない状況です。
インドの農村部(特に北部の貧しいウッタル・プラデーシュ州やビハール州など)へ行くと、上の写真のように子供に綱渡りをさせて生活費を稼いでいるような光景を見かけます。
経済成長の恩恵を享受している中間層以上のインド人たちとは別世界です。
※昔は中国でも手足を切り落とされて物乞いさせられている人を大勢見かけましたが、最近はすっかり見かけなくなりました。
IT産業で豊かになった中間層のインド人たちは自家用車やバイクを買い、日本製が人気なのでスズキの車やホンダのバイクは売れていますが、他の日用品などは中国からの輸入が多いです。
私はインド人の中間層から

日本製は信頼できるけど高い。インド製はさすがに買いたくない。なんだかんだ、安くてちょうどいい品質の中国製を買っちゃうんんだよね。中国は嫌いだけどね
という声を聞くことがよくありました。
このような状況なので、インド政府が教育とインフラ整備に本腰を入れて、放置された数億人の貧困層の状況を改善しない限りインドの製造業は明るい未来を描けず、中国を追い越す前のどこかで成長が頭打ちになってしまう可能性があると思います。
このままいくと、英語とプログラミングができるITエンジニアの不足が深刻となる一方で、スキルのない貧困層が貧しいまま放置され続けるインドの未来が想像できます。
つまり英語とプログラミングができるITエンジニアの完全雇用が達成されたタイミングでインドの成長は頭打ちになるのではないかということです。
製造業と違い、IT産業は学歴の低い貧困層の仕事を生まないからです。
いくらインドの人口が増え続けても、農村で時間とエネルギーを持て余している若い人達ばかりが増えるだけなら経済成長には繋がらないと思います。
中国側の問題は?

インドの問題ばっかり書いてるけど、中国側にも問題はあるでしょ?
もちろん中国も問題は山積みであり、それは日本で報道されている通りです。
- 少子高齢化
- 不動産バブル崩壊
- 中進国の罠
- 富裕層の海外への脱出
- 地方政府(融資平台)の債務
但し中国は、まだ潜在的には成長可能とも言われています。
先ほど「中国の都市化率は65%、インドは35%」と書きましたが、欧米や日本の都市化率は80%を超えており、それと比べるとまだまだ低いです(参考サイト:Urbanization by sovereign state)。
つまり中国はまだ、都市に工場を建てて農村から人を呼んで経済成長する余地があるということです。
中国はインドと異なり、農民でも字が読めますし製造業のインフラは整っていますので、都市化の歯止めとなる要因があるとすれば政府の政策だけです。
今は政治的な不安で外資企業も撤退しているので、成長が行き詰まってしまっています。
逆に言うと政府の方針次第で経済成長が再開する可能性があると思います。

政府の方針はそんな簡単には変わらないでしょう
確かに中国は地方政府の不良債権が2000兆円に上るとも言われており、方向性を誤ると革命や内戦にも繋がりかねないので、非常に厳しいかじ取りを迫られているのは間違いありません。
ただ中国は独裁国家だからこそ急な方針転換も可能です。
毛沢東から鄧小平へ変わった時に、計画経済を放棄して市場経済へ舵を切ったのは良い例です。
また習近平の前任の胡錦涛は、政権の末期に民主化の可能性を真剣に検討していたとも言われています。
つまり中国はトップが方針転換をすると、外国にはマネができないレベルで全てが変わります。
中国は過去に、ウルトラCのパワープレイで強引に問題を解決してきたことも多々あります(例えば、突然の武漢封鎖など)。
中国が成長するかどうかの鍵は良くも悪くもトップの方針次第ですが、インドの問題はもっと根深いです。
この記事でご紹介した通り、インドは社会インフラと教育がガタガタで、貧困層が経済成長から取り残されたままなので、抜本的なテコ入れが必要です。
しかしインドは政府の内部統制が取れていないので、たとえトップの方針が末端へ伝わるまでの間に、伝言ゲームのように内容が変わってしまいます。
また政治家や公務員の賄賂・横領などが原因で適切に教育やインフラへお金が回らないこともあります。
インドは政府の力が弱いので、中央政府のトップが貧困層の識字率向上や貧困撲滅を目指しても簡単には実施できない状況があるのです。