よくビジネスの場面で「自責思考」「他責思考」という言葉が使われます。
「自責思考」とは「自分のせいにすること」
「他責思考」とは「人のせいにすること」
一般的には自責思考を持つ人の方が成長できると言われています。
しかし「自責」という言葉を文字通り読むと「自分を責める」となるため、「失敗したら自分を苦しめなければ」というトンデモナイ誤解を生むことがあります。
「自責思考」とは、一歩間違えると真面目な人を鬱病へ追い込みかねない危険な言葉です。
そこでこの記事では、一般的な理解での自責思考と他責思考を説明した上で、自分を責めないようにするために「自因思考」という発想を提案したいと思います。
Contents
自責思考・他責思考とは?
自責思考、他責思考とは一体なんでしょうか?
まずは一般的な理解について確認します。
- 自責思考:何か問題が発生したときに自分の原因だと考える
- 他責思考:何か問題が発生したときに他人の原因だと考える
仕事でもプライベートでも、生きていれば何かしらの問題は発生するものですが、どんな問題であれ「100%自分に原因がある」とか「100%他人に原因がある」ということは珍しいと思います。
100%どちらの原因とも言い切れない時に、それを「自分にも原因がある」として考えるのか、「他人の原因だ」と考えるか、という問題です。
物事の原因は様々な捉え方があります。
例えば自分の投げた石が牛にあたったとき、「石を投げたから牛に当たった」とも言えるし、「そこに牛がいたから石に当たった」とも言えます。
自責思考と他責思考の違いは、「複数ある原因のうちどこにフォーカスするのか?」という違いになります。
例えば、あなたが他部署から出てきた書類をもとに資料を作成して上司へ提出しなければならないとします。
しかし、依頼した期日までに他部署から資料が提出されなかったため、あなたも期日までに資料を上司へ提出できませんでした。
このとき、他責思考の人は
などと言います。それに対して自責思考は
などと考えます。
他責思考の場合、また同じ状況に陥ったときに「他部署からの提出が遅れたから仕方がない」と人のせいにして改善をしないので、毎回期日に遅れます。
それに対して自責思考の場合、前回の反省から改善をしますので、同じ失敗は繰り返しません。
他のメンバーが失敗をした場合であっても、「自分にも何かできることはなかったか?改善点はないか?」と考えられるのが自責思考の人ですね。
他責思考よりも自責思考の方が成長できるのは間違いありません。
「自分に原因がある」と「自分が悪い」は違う
上述の通り、他責思考で何でもかんでも他人のせいにしていると、成長できません。
しかし自責思考を誤って解釈すると、成長するどころか何もできなくなってしまいます。
失敗したときに
などと考えてしまうと、成長するどころか無気力になってしまいます。
もともと自己肯定感が低く自身を責めがちな人は「自分が悪い」と考えてしまいがちです。
ここに大きな落とし穴があるので要注意です。
「自責思考」を誤解して自分を責めてしまう理由は、「自分に原因がある」と「自分が悪い」を混同してしまうことです。
そこでまず、「自分に原因がある」と「自分は悪い」は全く別であるということを理解する必要があります。
この点は非常に紛らわしく、多くの人が混同していると思うので、例を3つ挙げて説明します。
例1:児童虐待は親が100%悪い
たとえば、「お腹を空かせた子どもが泣いてうるさかった」ということが原因で「親がイライラして子どもを虐待して殺害した」という結果が発生とします。
このとき、もし子どもが泣かなければ親はイライラしなかったかも知れないので、「子どもが泣いたことが原因であった(トリガーとなった)」ということは言えるかもしれません。
しかし、「だから子どもが悪い」という話になりませんよね?
どう考えても子どもは1%も悪くありません。
児童虐待による殺害は100%親が悪いです。
例2:盗難は盗んだ方が100%悪い
「自転車に鍵をかけ忘れたから自転車を盗まれた」という場合、「鍵をかけなかった方が悪い」などと言われることがあります。
確かに、鍵をかければ盗まれることはなかったかも知れません。
しかし、だからと言って「鍵のかかってない自転車は盗んでも良い」ということにはなりません。
鍵をかけなかった人に対して「鍵をかけた方が被害を防げますよ」とは言えます。
しかし100%悪いのは盗んだ人であって、「悪いのは盗んだ人ではなく、鍵をかけなかったあなたです」などとは言えません。
という人もいますが、インド人だって「原因と責任は違う概念だ」ということを分かる人は分かります。
本来の「自責思考」とは「鍵をかければ被害を防げたから、次からは鍵をかけよう」と考えることであって、「鍵をかけなかった私が悪く、盗んだ人は悪くない」などと考えることではありません。
例3:痴漢・婦女暴行は加害者が100%悪い
私の住んでいるインドで暴行事件が起きた際に話題となるのが、インド人男性の「暴行された女性も悪い」という主張です(参考サイト:性的暴行は被害者のせいじゃない 親たちが息子の育て方を変えれば、女性は救われる)。
※私は、このような考え方をするインド人と直接会ったことは一度もありませんが。
日本でも、ハロウィンの時に東京の渋谷で痴漢被害に遭った女性に対して
と言った意見がネットを飛び交ったことが話題となりました。
痴漢加害者の多くは痴漢依存症です。
依存症というのは自分でコントロールするのが難しく、視野に依存対象が入ってきてしまうと自動でスイッチが入ってしまいます。
例えばギャンブル依存症はパチンコ屋が視野に入ると「依存スイッチ」がオンになってしまい、嫌でもパチンコ屋へ入店してしまいます。
「ギャンブルが楽しい」「勝って嬉しい」「負けて悔しい」と言っている人はまだギャンブル依存症ではありません。
「勝っても別に嬉しくないし、負けても別に悔しくない。ギャンブルをしても罪悪感しか覚えない。それでもギャンブルをし続けなければ死んでしまう(と思い込んでいる)。」というのが依存症です。
お酒やタバコの依存症も同様に、お酒やタバコを楽しんでいるわけではなく「見ると勝手にスイッチが入ってしまう」という状態です。
痴漢依存症である痴漢加害者も痴漢対象の女性が視野に入った瞬間にスイッチが入り、痴漢をしてしまいます(参考サイト:全男性が持っている「痴漢トリガー」とは何か)。
※先ほどから「男性が加害者で女性が被害者」という前提で書いていますが、女性が加害者で男性が被害者というケースもあります。
痴漢依存症患者は、痴漢できる状況に陥ると必ず痴漢をしてしまうように脳がプログラムされています。
従って、痴漢をしても「その女性が電車に乗ってきたことが原因で、痴漢が発生した」と考えてしまう場合があります。
確かに、女性が電車に乗らなければ痴漢は発生しないので、痴漢加害者の言っていることは間違いではありません。
しかし、「電車へ乗ってきた女性に原因があるから女性が悪い。痴漢加害者は悪くない」という話にはなりません。
もちろん、痴漢被害者に対して「ハロウィンに渋谷へ行かない方が余計なトラブルは避けられますよ」とか「ラッシュ時間帯を避けて出勤できるフレックスタイム制の会社へ転職したらいかがですか?」と改善提案をすることはできます。
しかし「痴漢の被害に遭ったのは、あなたも悪いですよ」と責めることはできません。
女性が電車に乗ったり、ハロウィンの日に渋谷を歩くのは当然の権利であって、そのこと自体で女性を責めるのは筋違いも甚だしいと言えます。
しかし「ハロウィン中の渋谷で痴漢されたら、渋谷へ行った女性が悪い」といった意見がネットで飛び交うことから分かるように、「原因がある」と「悪い」は、よく混同されます。
「自責思考」から「自因思考」へ
何かミスをしたとき、または誰かとトラブルになったとき、やるべきことは失敗の原因を考えて改善することで、自分を責めることではありません。
もちろん、故意に横領や粉飾をしたという場合であれば道徳的に問題があり「悪い」と言えますが、仕事でミスやトラブルを起こすこと自体は道徳的に問題があるわけではありません。
従って「自分が悪い」と思う必要はなく、ミスやトラブルの原因を考え、次に同じ誤りをしないよう改善すれば問題ありません。
しかし多くの人が、「自責思考は素晴らしい」というスローガンの下で「自責思考」の意味を誤解し「自分が悪い」と自分を責めてしまいます。
どうしてこうなってしまうのでしょうか?
私は、そもそも「自責思考」という言葉が紛らわしいと考えています。
「自責思考」を字面通り読むと「自分を責める思考」という意味になりますが、「責める」とは「非難する」「苦しめる」という意味です。
本来、自分を苦しめても問題は解決しませんし、失敗は改善しませんし、誰も得をしません。
そこで、「自因思考」という言葉を提案したいと思います。
「自因」とは「自分に原因がある」という意味です。
「自因自果」という言葉がありますが、「自分で作った結果が自分に返ってくる」という意味です。
決して「自分に原因があるから自分を責めなさい(自分を苦しめなさい)」という意味ではありません。
「自分に降りかかった結果には、自分で作った原因がある」
「結果が嫌なら原因を変えましょう」
というだけの話で、それが道徳的に良いとか悪いとかいう話ではありません。
「自因思考」で自分を責めずに改善する
「自分に原因がある」と「自分が悪い」は異なります。
何か問題が発生した場合、「すみませんでした」と一言謝罪するのは必要かもしれませんが、それ以上自分を責めても誰も得をしません。
とはいえ他人のせいにしていては、今後も同じ間違いを繰り返します。
自分のせいにするのでもなく、人のせいにするのでもなく、「どうすれば結果を変えられたか?」と原因を考えて、次回以降同じ失敗を繰り返さないようにすることが重要ではないでしょうか。