中韓台湾・東南アジア・インドの対日感情と歴史認識の違い

経済成長が著しく日本にとって身近なアジアの国々ですが、日本は戦時中にアジア諸国を植民地化した歴史があります。日本が戦前に植民地化をした国は台湾、韓国、北朝鮮、中国(一部)、東南アジアです。

このうち、中国や韓国は日本の「侵略」に対する謝罪を繰り返し求めているのに対し、台湾や東南アジアは親日的とされています。この歴史認識の差がどこから来るのか、地域別に整理してみたいと思います。

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結論

いきなりですが、先に結論からご紹介します。

東南アジア諸国が戦前の日本に肯定的な理由
  • 長年欧米の植民地支配を受けており、日本が欧米から解放してくれたという意識がある
  • 日本の統治期間は第2次世界大戦中の数年間に限られる
  • 近代以前の歴史において日本との特別な上下関係はなかった
台湾が戦前の日本に肯定的な理由
  • 日本による統治期間を通じてインフラの整備が進んだ
  • 戦後の国民党による台湾人弾圧や台湾支配を宣言する共産党への反発から日本への印象が良くなっている
  • 近代以前の歴史において日本との特別な上下関係はなかった
中国と韓国が戦前の日本に批判的な理由
  • 台湾や東南アジアと異なり、日本以上にダメージを与えられた国がなかった
  • 近代以前の華夷秩序において、日本は中国や韓国よりも格下であったにも関わらず、明治維新を通じて日本が支配的な立場になった
台湾が戦
インド・中東が戦前の日本に肯定的な理由
  • 第2次世界大戦で日本とは関わりがなかったため、日露戦争の延長線で「有色人種の代表として白人の国家と戦った」というイメージで第2次世界大戦中の日本を捉える傾向がある。
  • 日本によるアジア諸国の支配については殆ど知られていないが、広島・長崎への原爆投下については広く知られている

東南アジア

東南アジアの対日感情を理解する手がかりとして、だいぶ昔になりますが2007年3月に私がベトナム・カンボジアをツアーで旅行したときに現地の人から聞いたことをご紹介します。

カンボジア

カンボジアは政情が不安定であり、言論の自由が殆どありません。

カンボジアの対日認識

カンボジアのガイドは「日本語なら盗聴される危険性がないので自由に話せるが、カンボジアの言語ではこんな話は絶対に出来ない。もし聞かれたら捕まる。」と言いながら日本語で色々と話してくれました。

国家による言論統制というものを初めて生で感じました。日本については以下のように語っていました。

「多くのカンボジア人は、日本に対して『フランスから解放してくれた国』という良い印象を持っています。勿論、戦争中のことですから色々と酷いこともあったでしょう。だから個人的に日本へ恨みを持っている人はいるかもしれません。しかし、国全体としては韓国のような反日の雰囲気は全くありません。また現代では多くの日本人が観光に訪れてお金を落として行ってくれるので、そういう面でも感謝している人は多いと思います」

カンボジアは戦前にはフランスの植民地でしたが、1940年にナチスによってパリが陥落すると、日本はカンボジアにも進駐します。

ガイドによると、フランスの植民地政策が厳しかったこともあり、カンボジア人は日本のカンボジア進駐をかなり喜んだそうです。

だから日本が負けてフランスが帰ってくると、多くの国民は「あ~あ、日本がいなくなってフランスが戻ってきちゃったよ」という感じだったらしいのです。

このガイドさんは、日本が戦後の間ずっと国際法を遵守し、基本的人権を尊重して直接的に他国へ爆弾を落としたことが一度もなかったことについて評価してくれていました。

だから、首相が靖国神社へ行っただけで日本が軍国主義的な怖い国になったと考える人は殆どいないということです。

このガイドさんは過労死や日系企業の意思決定の遅さなどの日本社会の問題点についても忌憚なく話していたので、日本人観光客に対して気を使って日本を誉めたということはまずなく、率直な感想を述べただけだろうと思います。

カンボジアの対中認識

一方、カンボジア人の対中国意識についても聞いてみました。

「中国はポル=ポト政権を支援していました。中国やソ連製の武器で大勢のカンボジア人が亡くなったのだし、今でもその地雷による事故が絶えないのだから、地雷撤去の支援をしてくれても良いと思うんです。でも地雷撤去の支援は欧米や日本が中心で、ロシアや中国から援助が来たという話は聞きませんね。だから、多くのカンボジア人は彼らにはあんまりいい感情を持っていないですよ」

なお、ポル=ポトというのは国民を大虐殺した1975-1979のカンボジアの独裁者です。1975年には600万人だった人口が1979年には300万人(約半分)になっていたそうです。

軍事的な問題による反中感情に加えて、華僑(=中国人)社会がカンボジア社会に与える影響は無視できないものがあるらしく、華僑を通じてカンボジアが中国の影響下に置かれるのではないかという危機感もあるのだそうです。

同様の話はミャンマー人からも聞いたことがあります。

カンボジアの町を歩いてみると「カンボジア(クメール)語も漢字で表記されているのか?」と思いたくなるほど、あちこちに漢字が見受けられました。

横浜の中華街は「日本人向けに観光地化されてるなぁ」と感じますが(ここ数年は急速に純中国化が進んだ気はしますが)、東南アジアの中華街の雰囲気からは「現地の文化には一切染まりません」という中華系の人々の意思を感じました。

これだけ影響力が強いと、クメール人(カンボジアの主要民族)が中国を脅威に感じるのも当然だと思います。

ベトナム

続いて、ベトナム(越南)の対日感情について。まず、日越関係史について確認します。

日露戦争後

日露戦争に日本が勝ったので、フランスからの独立を目指して多くのベトナム人が日本へ留学しようとました(東遊運動)。

しかし、フランスとの関係悪化を恐れた日本は留学希望者をみんなベトナムへ追い返しました。

第二次世界大戦中

国民党の蒋介石に物資を送る「援蒋ルート」を切るために、日本は北ベトナムへ侵攻しました。1940年の「北部仏印進駐」です。

当時ベトナム人は「解放された」と喜んだらしいですが、終戦までベトナムは日本の植民地に置かれました。

ベトナム戦争

アメリカ軍機が日本本土や沖縄の基地からベトナムを攻撃しに行きました。さらに、ベトナム戦争の特需によって日本は高度経済成長しました。

こうして振り返ると、日本はベトナムに対してかなり酷い仕打ちをしているように思います。

しかしベトナムの戦争博物館へ行ったら「残虐なアメリカ軍に対してベトナム人は勇敢に戦った」ということは書いてあったけど、特に日本のことは書いてありませんでした。

言葉が悪いですが、ベトナムやカンボジアは長い間中国やアメリカ、フランスといった大国に酷い目に遭わせられ過ぎた結果、日本が第二次世界大戦中にしたことは相対的に酷い思い出としては残らなかったのではないかと思います。

また朝鮮は30年以上日本の植民地であり、中国についても1915年の対華21ヶ条の要求以降日本はかなり積極的に進出していたのに対し、日本が東南アジアに進出したのは終戦直前の数年間だけだったので、統治期間の長さの違いも影響しているかもしれません。

フィリピン

フィリピンは戦後しばらく反日だったようです。

日本が来る前からアメリカがフィリピンに対して独立を約束していたため、他の東南アジア諸国のように日本の力を借りる必要がなかったという経緯の違いがあるようです。

アメリカは、自国がイギリスの植民地から独立したという歴史的経緯もあり、フランスのように軍事力によって独立を抑えこもうとはしなかったようです。

インドネシア

インドネシアは現在では極めて親日的な国家としてのイメージが定着していますが、かつては反日運動の嵐が吹き荒れたことがありました。

インドネシア国民の対日好感度は世界でも一、二位の高さだ。このような親日国インドネシアの首都ジャカルタで、今からちょうど40年前に反日の嵐が吹き荒れたことをご存じだろうか。

「マラリ事件」と呼ばれる、田中角栄がインドネシア訪問をした時に起こった反日運動です。
直接的には第二次世界大戦前の日本の植民地とは関係なく当時の政権への反発であったようですが、「インドネシアといえば常に親日」という思い込みは危険な可能性があります。
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台湾

台湾については朝鮮以上に長い50年にも渡り日本の植民地でしたが、とても親日です。これはなぜでしょうか。

台湾はもともとマレーポリネシア系の先住民が住んでいたところに、17世紀以降に(台湾の対岸にある)福建省を中心とした漢人が移住しました。

日本が統治を始めた19世紀末の時点では、漢人系の住民は(福建省の言語が変化した)台湾語や客家語を話し、先住民はそれぞれの民族言語を話し、お互いに全く通じないという状況でした。

50年間の日本の植民地統治を通じてインフラが整備され、日本語を共通語として異なる民族同士でも会話ができるようになる、といった成果が上がりました。

しかし、植民地時代当時は決して多くの台湾人が親日的だったというわけではなかったようです。

台湾の人々が決定的に親日になったのは、戦後中国大陸から蔣介石率いる国民党がやってきて、台湾人に対して酷い扱いをしてからです。

台湾の人たちは「犬(日本)がいなくなって豚(中国)が来た」と表現したようですが、二二八事件に代表されるように中国から来た国民党が反抗する台湾人を虐殺する事件もありました。

なお、日本統治時代から台湾にいる人を本省人と呼ぶのに対して蔣介石以後に中国大陸から渡ってきた人々を外省人と呼びますが、傾向としては外省人よりも本省人の方に親日家が多いようです。

二二八事件を通じて中国に対してイメージが悪くなり、そして戦後の中国は共産党の一党独裁政権となり「台湾は中国の一部」と強硬に主張しているため、中国と距離を置きたいという気持ちが強くなりました。

その反動として、日本に対するイメージが格段に向上しています。

台湾の掲示板を覗くと「なぜ戦後日本は台湾を捨てたんだ」などという書き込みまで散見されます。

※余談ですが、日本語を共通語として初めて異なる民族同士で意思疎通ができるという当時の台湾の状況は、英語を共通語として初めて意思疎通ができる現在のインドの状況と似ています。もし戦後台湾が中華民国の一部とならず「台湾国」として独立していたら、今のインドが英語を事実上の公用語としているように、日本語が台湾の事実上の公用語になっていたかも知れません。

結論としては、東南アジアが欧米への反発から日本に対して良いイメージを持っているのと同様に、台湾も中国に対する反発から日本に対しては良いイメージを持っているようです。

中国・韓国

一方、中国や韓国はなぜ反日の傾向が強いのでしょうか。そもそも江戸時代以前、東アジアでは中国を中心とした国際社会(華夷秩序)が築かれていました。

各国の王は中国の皇帝に貢物を献上(朝貢)し、その代わり中国の皇帝は各国の王に何倍ものお返しをして王として認める(冊封)という上下関係のある国際関係です。

そこでは中国の皇帝が最も偉いとされ、朝鮮が2番目、日本はランク外でした。日本は(足利義満など一部の例外を除いて)中国に朝貢しなかったため、中国からは無視され朝鮮からは見下されていました。

そのように見下していた日本が明治以降に突然強くなり、朝鮮を植民地化して中国へも進出していくのですから、中国や朝鮮からしたら面白くありません。

このように「歴史的に日本のことを下に見ていた」という点が、まず朝鮮や中国が台湾や東南アジアと異なる点ではないかと思います。

中国人の歴史観については 中国人が一党独裁や人権侵害を肯定し「一つの中国」に拘る3つの理由で紹介していますのでご参照ください。

次に、他の国との関係も異なります。

東南アジアはもともとヨーロッパに統治され欧米への反発があり、台湾は中国に対する反発が強いのに対して中国や韓国に関してはそういった国がありません。

日本からの影響、日本による植民地化や日本軍の大陸進出に対するトラウマが最も強く、中韓に対して日本以上に強いトラウマを与えた国はありません。

中国へ最初に進出したのはイギリスで、ヨーロッパ諸国も中国の領土分割をしたものの、大陸全体に渡って軍隊を派遣し中国の奥地まで大規模な戦争を繰り広げた国は日本以外にはありません。

従って、やはり中国人は日本に対して最も大きな恨みを抱いています。また戦争中、日本は「アジアの解放」を建前に掲げていました。

これは欧米の植民地であった東南アジアやインド人からすればリアリティがあったものの、欧米の租借地があったとはいえ既に中華民国が成立しており主権国家となっていた中国人からすればなぜ日本人が「アジアの解放」を掲げるのかが理解できません。

上記のような歴史的背景があるので、台湾や東南アジアが親日になり、中国人や韓国人が反日になるのは自然なことであって、国民性の違いなどといったことが理由ではないと思います。

インド

日本に植民地化された経験がなく日本と歴史的に大きな問題を抱えていないインド・スリランカ・パキスタン・バングラディッシュでは、日本に対して侵略国家というイメージは殆どないようです。

私は先日あるインド人から「日本はアメリカから広島と長崎に原爆を落とされ、大勢の人が死んだ。私は日本が好きなので、その事実を知って泣いた。日本はアメリカに対してリベンジをしようとは思わないのか?」と真顔で言われ、とても戸惑いました。

日本がアジア諸国へ勢力を拡大した事実は殆ど知られておらず、日本が一方的にアメリカの侵略を受けたと認識されているようです。

私が直接的に聞いたことはありませんが、中東と関わりのある日本人から聞いた話では、中東諸国でも日本に対してインドと同様の認識を持っているようです。

これらの諸国は日露戦争で日本が有色人種として初めて白人の国家に勝ったという意識が強く、第2次世界大戦もその延長で考えられているようです。

中国と韓国に関する補足

最後に、中国と韓国について3点補足があります。

「中国人や韓国人は反日ではない」という意見について

「中国・韓国人は反日」などというと「そんなことはない。中国・韓国人だって日本製の商品が好きな人は大勢おり、親日の人は大勢いる」という反論をされることががあります。

もちろん、中国人が全体的として反日というというわけではなく、日本の文化や製品を尊敬している方が大勢いることは承知しています。

しかし、いくら日本好きの人とはいえ、その中国人に対し「戦前、日本が現在の中国となっている地域の一部を実効支配し、日本軍が中国へ進出したことについてどう評価するか」と質問したときに「日本軍が中国へ来てくれて良かった」などと回答する中国人は(ゼロとは言いませんが)極めて稀だと思います。韓国も同様です。

これは東南アジアの人が日本軍が来てくれて、欧米の植民地から解放してくれて助かった」と言い、台湾人が「なぜ戦後日本は台湾を捨てたのか」などと発言するのとは著しく対照的です。

この記事で言及している親日・反日というのはあくまで戦前の日本の行為に対する歴史認識に限定した場合の話です。

「中国人と韓国人は政府に洗脳されているだけではないか」という意見について

中国と韓国は日本を敵として愛国心を強める反日教育が盛んに行われているため、偏った歴史認識を持っているという考えがあります。

韓国のことはよく知りませんが、確かに中国では言論統制が厳しく、戦前の日本の悪いことが盛んに宣伝され、戦後の中国に対する貢献などについてはあまり知られていません。

天安門事件以降、中国共産党への批判を反らすために反日を利用したという指摘も間違いではないと思います。

しかしだからといって、もし反日教育がなければ中国が台湾や東南アジアのように日本軍の中国進駐を肯定的に評価ようになるか?というと、上述の理由でそんなことは有り得ないと思います。

どんなに言論が自由化され、戦後の日本の中国に対する貢献が知られるようになったとしても、(親日家が増える可能性はあっても)戦前の日本に対する評価がプラスになることはないと思います。

最近の韓国の動向について

私は「中国や韓国が戦前の日本に対して否定的になるのは理解できる」と書きました。

しかしだからと言って、韓国が日本政府に対して繰り返し謝罪を求めること、政府間の合意である慰安婦合意を一方的に破棄するかのような行為をすること、徴用工の個人補償が請求権協定に含まれていないなどと突然言い始めること、火器管制レーダー照射問題で全く謝罪しないこと、GSOMIAを一方的に廃棄したことなど、昨今の韓国政府の動向を全て理解すると言っているわけではありません。

過去の問題は過去の問題として、戦前に韓国を植民地化したからといって日本が韓国から何をされても許さなければならないというわけではないと思います。

 

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