中国の高校歴史教科書に登場する日本史3 ~戦中戦後編~

今回は、中国の歴史教科書の戦時中と戦後に関する日本の記述をご紹介します。

弥生時代からの記述が前提になるので、この記事だけを読んでもよく分からないと思います。

前々回と前回の記事を読んでいない方は、先にそちらをご覧ください。

前々回の記事:中国の高校歴史教科書に登場する日本史1 ~古代から明治維新編~

前回の記事:中国の高校歴史教科書に登場する日本史2 ~戦前編~

私は歴史学者ではないので、記事引用後に書いている私のコメントの正確性は保証できません。

特に、最もセンシティブで論争になりやすい時代の歴史なので、様々な意見があると思います。

素人の感想なので参考程度にお読み頂き、もし意見があればコメント欄にお願いします。

満州事変から盧溝橋事件(1931年~1937年)

世界大恐慌を契機に恐慌へ陥った日本は対外拡張を進めます。

在亚洲,经济大危机重创日本经济,日本法西斯分子认为,摆脱危机的出路是对外扩张,他们声称“满蒙是日本的生命线”,妄图把中国东北变成日本独占的海外市场和殖民地,进而征服中国,最终政府世界。1931年,日本军队发动九一八事变,侵占中国东北。1936年,日本建立军事法西斯专政,以扩张对外侵略为基本国策。下巻 P103

日本語訳

アジアでは、大経済危機が日本経済を直撃した。 日本ファシズム分子は、危機を脱する道は対外膨張にあると考え、「満州は日本の生命線」と主張し、中国東北部を日本の独占的な海外市場、植民地とし、中国、ひいては世界政府を征服しようと妄想した。1931年、日本軍は九・一八事件を起こし、中国東北部を侵略した。 1936年、日本は対外侵略の拡大を基本国家政策とする軍事ファシズム独裁政権を樹立した。

「中国・世界を征服しようと妄想(妄图)した」というのは、石原莞爾の世界最終戦論を指していると思われます(あくまで私の推測です)。

石原莞爾は「東洋の王者である日本と西洋の王者であるアメリカとが最終決戦(東洋の王道と西洋の覇道との決戦)が行われるので、それに備えるために日本が満州やモンゴルを領有するべきだ」と考えていたようです。

満州事変では天皇の事前承認なしに朝鮮に駐留する軍隊を勝手に満州へ越境させるなど、本来は法令に基づいて死刑になるべき大問題を起こしていましたが、結果的に満州の権益確保に成功したので、石原莞爾達が咎められることはありませんでした。

実際には石原莞爾の考えを理解している人は少なく、単に「コンプライアンスはどうでも良く、手柄さえ挙げれば何でもよい」という雰囲気だけが軍内部で形成されてしまい、軍の内部統制が崩壊したと言われています。

中国の教科書に書かれている1936年の「日本は対外侵略の拡大を基本国家政策とする軍事ファシズム独裁政権を樹立した」とは、二・二六事件後の広田内閣を指していると思われます。

日本对东北三省的大规模侵略强烈地震了中国社会,在深重的民族危机面前,民众抗日救亡运动兴起。上巻 P142

日本語訳

日本の東北三省への大規模な侵略は中国社会に激震を与え、深刻な民族危機に直面して、民衆による抗日救国運動が巻き起こった。

満州事変のあと建国された満州国は、現在の中国では「偽満州国」と呼ばれています。

1937年7月7日,日本制造七七事变,发动了全面侵华战争,中国开始全民族抗战,这也成为第二次世界大战在亚洲爆发的标志。中华民族结成抗日民族统一战线,团结抗日,开辟了对日本法西斯持久作战的东方主战场。

下巻 P104

日本語訳

1937年7月7日、日本は七七事変(盧溝橋事件)によって中国に対する本格的な侵略戦争を開始し、アジアにおける第二次世界大戦が勃発した。 中華民族は対日民族統一戦線を形成し、団結して日本に抵抗し、日本に対してファシズム持久作戦の東方主戦場を切り開いた。

当時の日本の特徴として、ヒトラーやスターリンのような分かりやすい独裁者がいなかったことが問題をややこしくしています。

満州事変の引き金を引いた石原莞爾が盧溝橋事件以降の日中戦争には反対しているなど、個々の政治家や軍人の責任を追及しようとすると五里霧中に陥ります。

第二次世界大戦

呉 博物館

盧溝橋事件から終戦までの記述は非常に細かく膨大で、全部ご紹介しきれないため、大きな出来事に絞って引用します。

1937年11月,国民政府撒离南京。12月13日,日军攻陷南京。日军在南京进行了持续六周的烧杀劫掠,制造了惨绝人寰的南京大屠杀。据战后中国南京审判日本战犯的军事法庭查证,日军占领南京后,屠杀手无寸铁的中国居民和放下武器的士兵30万人以上。上巻 P145

日本語訳

1937年11月、国民党政府は南京を去り、12月13日、日本軍が南京を占領した。 日本軍は6週間にわたって南京で焼き討ちと略奪を行い、凄惨な南京大虐殺を引き起こした。 戦後、日本の戦犯を裁いた中国南京の軍事法廷によれば、日本軍は南京占領後、非武装の中国人住民と武器を捨てた兵士30万人以上を虐殺したという。

南京事件に関して中国国内の意見は「30万人の虐殺が発生した」ということで比較的一致しているようですが、日本側は「南京事件はなかった」とする説から、20万人の説まで様々な意見があります。

日本政府の公式見解は外務省のホームページに記載されています。

日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できないと考えています。しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難であると考えています。

外務省ホームページ 歴史問題Q&A

南京事件に関する日中間の認識の不一致は非常に有名ですので、詳細は省略します。

政治上,日本侵略者实行“以华制华”方针,在占领区扶植傀儡政权。1940年3月,在日本扶植下,汪精卫在南京成立伪国民政府,并签订大量卖国协定。经济上,日本侵略者实行“以战养战”,对占领区大肆进行野蛮的经济掠夺,垄断沦陷区工矿,金融,交通业。日军将粮食规定为军用物资,实行“粮食统制”,强行“征购”和“配给”,造成普遍的饥馑和死亡。他们还强迫青壮年到日本和中国东北做苦力。下巻 P145

日本語訳

政治的には、日本の侵略者は「中国を利用して中国を支配する(以華制華)」政策を実行し、占領地に傀儡政権を設置した。1940年3月には、汪兆銘が日本の支援の下、南京に偽国民政府を樹立し、大量の売国協定を締結した。 経済的には、日本の侵略者は「戦争で戦争を養う(つまり物資の現地調達)」を実践し、占領地に対して容赦なく野蛮な経済的略奪を行い、占領地の工業、鉱業、金融、運輸業を独占した。 日本軍は食糧を軍用物資と規定し、「食糧統制」を実践し、「徴発」と「配給」を強制し、飢饉と死者を蔓延させた。 また、彼らは日本や中国北東部で(中国の)若年層を強制労働させた。

戦時中に日本国内で人材が不足していたことから、産業界の要請で、1942年11月27日に「華人労務者内地移入二関スル件」が閣議決定されました。

日本企業が厚生省に必要な労働者数を申請し、中国の日本大使館や汪兆銘政権が労務統制機関などを通じて労働者を集め、日本へ移送していたそうです。

中国の教科書には「強制労働」と書かれていますが、強制であったかどうかは色々な意見があり、また各労働者によって様々な事情があったと思います。

ただ、タコ部屋労働や女工哀史などで知られる通り、戦前の日本では平時の日本人労働者に対しても当たり前のように虐待が行われていたので、戦時中の中国人に対する扱いは相当に酷いものだったのだろうなという気はします(あくまで私個人の推測です)。

1945年6月30日には、秋田県の鹿島組で働いていた過酷な労働や虐待による死者の続出に耐えかねた中国人労働者が一斉蜂起、逃亡した花岡事件も発生しました。

とはいえ、当時の状況を現在の基準で評価するのは不適切かも知れませんし、当時の生活が大変だったのはどこの国民も同じかと思うので、いずれにしても本当に大変な時代だったと思います。

日军在敌后抗日根据地实施野蛮的烧光、杀光、抢光”三光“政策。1941至1942年,日军在华北连续五次推行”治安强化运动“,对抗日根据的进行疯狂”扫荡“,华北乡村变成一片焦土。下巻 P145

日本語訳

日本軍は敵陣後方の抗日基地で「焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くす」という野蛮な「三光」政策を行った。1941年から1942年にかけて、日本は華北で5回連続で「治安強化運動」を行い、抗日基地に対して狂気の「掃討」を行い、華北の農村は焦土と化した。

三光作戦については、「三光」が中国語であることから、日本軍の作戦ではなく中国側のプロパガンダではないかという意見もあるようですが、日本人の学者でも「『三光作戦』という名称の作戦は存在しないが、掃討する命令を出した」という意見もあります。

1938年2月至1943年8月,日军对战时陪都重庆进行了长达五年半的战略轰炸和无差别轰炸。据不完全统计,重庆大轰炸的死者超过1万人,绝大多数为平民,市区大部分繁华地区被毁坏。下巻 P146

日本語訳

1938年2月から1943年8月までの5年半の間、日本軍は戦時中の首都重慶に対して戦略的かつ無差別的な爆撃を行った。 不完全な統計によれば、重慶爆撃で1万人以上が死亡し、その大半が民間人であった。

中華民国はもともと南京が首都でしたが、日本軍が南京を陥落させて蒋介石が重慶へ移ったので、重慶を爆撃しました。

日军侵华期间,践踏国际公法,实施细菌战,残杀中国军民。九一八事变后,日军组建了细菌部队。1938年,细菌战元凶石井四郎的细菌部队迁至哈尔滨平房镇,成为臭名昭著的731部队。1938至1945年,731部队曾以活人试验和胡活人解剖等灭绝人性的手段杀害中国人,朝鲜人以及盟军战俘超过1万人。下巻 P146

日本語訳

日本軍の中国侵略の期間、日本軍は国際公法を踏みにじって細菌戦を実施し、中国の兵士や民間人を殺害した。 満州事変の後、日本軍は細菌部隊を設置した。1938年、細菌戦の元凶である石井四郎の細菌部隊はハルビンの平房鎮に移り、悪名高い731部隊となった。1938年から1945年にかけて、生きた人間の人体実験や解剖などの非人道的な方法で、1万人以上の中国人、朝鮮人、連合軍捕虜を殺害した。

ナチスもユダヤ人に対して人体実験を行っていましたが、日本軍も中国で同様の人体実験をしていたとされています。

日本国内では、南京事件などについては「存在しなかった」という主張も根強いですが、731部隊については否定する説は少ないようです。

日军还在中国强征随军性奴隶,推行“慰安妇”制度,约20万中国女性遭受蹂躏。这是日本侵略者违反人道主义,违反国际法则的政府犯罪行为。下巻 P146

日本語訳

日本軍はまた、中国で軍用性奴隷を強制的に徴用し、「慰安婦」制度を導入し、約20万人の中国人女性を蹂躙した。 これは日本の侵略者による犯罪行為であり、人道主義と国際法に違反している。

慰安婦問題については韓国との間での問題が有名ですが、日本の外務省のホームページを見ると「強制連行」「性奴隷」「20万人」といったことが不適切であることが書かれています(参考URL:歴史問題Q&A 問5 )。

この問題についても様々な方が様々な角度から意見を出しているので、特にコメントはありません。

1945年8月6日和9日,美国先后在日本广岛、长崎投下两枚原子弹。8月8日,苏联对日宣战。8月9日,苏军进入中国东北,与中国军民一道,迅速消灭日本关东军。同日,毛泽东发表《对日寇的最后一战》的声明,解放区战场展开全面反攻。
下巻 P153

日本語訳

1945年8月6日と9日、アメリカは日本の広島と長崎に2発の原子爆弾を投下した。8月8日にはソ連が日本に宣戦布告した。8月9日、ソ連軍は中国東北部に進駐し、中国軍と人民とともに日本の関東軍を瞬く間に壊滅させた。 同日、毛沢東は「日本軍との最後の戦い」という声明を発表し、解放区の戦場は全面的な反攻を開始した。

少し話がそれますが、私がインドに住んでいた時、インド人やスリランカ人から

インド人

日本はアメリカに原爆を落とされて、報復しようと思わないのか?

と聞かれたことが何度もあります。インド人は日本のことをよく知らないので、「日本といえば、スズキの車とホンダのバイクとドラえもんと原爆だよね?」という感じでした。

日本軍はインドより西には進軍しなかったので、インドや中東では日本とアメリカが戦争を始めるまでの経緯はあまり知られていません。

日本人に対して非常に同情的で「原爆まで落とされたのだから、日本人はさぞかしアメリカのことを恨んでいるだろう」と思われているようです。

白井聡氏の「永続敗戦論」を読むと、中東へ行った日本人が現地の人から「次回アメリカと戦争をするときは、一緒に戦おう!」と言われているシーンが出てきます。

中国では日本の加害行為が強調されているので、「日本人は原爆を落とされて可哀相だ」などとはもちろん言わず、「あれだけ中国に酷いことをしたのだから、原爆を落とされたのも日本の自業自得だ」という考え方が支配的です。

しかし、日本人が心の底からアメリカに親近感を抱いているとまでは思っていないようです。

中国人からは

中国人

日本は戦争中にボコボコにされたからアメリカのことを恨んでるんだろうけど、米軍基地で押さえつけられてるから、アメリカに反抗したくてもできないんでしょ?

と、よく言われます。

日本人は「戦後の日本は平和主義の国として生まれ変わったから、今さらアメリカのことを恨んだりはしない」と考えていると思います。

しかし海外からはそのようには理解されておらず、「日本はアメリカ軍に抑えつけられた上に洗脳までされている可哀想な国だ」という印象を持たれている感じがします(あくまで私個人の感想です)。

スポンサーリンク

戦後(1945年~)

皇居

そして終戦です。

8月15日,日本天皇发布无条件投降诏书。9月2日,在东京湾的美国军舰“密苏里”号上举行日本投降签字仪式。中国抗日战争和世界反法西斯战争胜利结束。10月25日,陈仪在台北代表中国政府庄严宣布台湾光复。从此,台湾作为中国的一个省,回到祖国怀抱。下巻 P154

日本語訳

8月15日、日本の天皇が無条件降伏の詔書を発布した。9月2日、東京湾のアメリカ軍艦ミズーリ号で日本の降伏調印式が行われた。 中国の対日抵抗戦争と世界の反ファシズム戦争は終結した。10月25日、陳儀は中国政府を代表して台北で台湾の回復を厳粛に宣言した。 以後、台湾は中国の省の1つとなり、祖国の抱擁のもとに戻った。

中国の歴史教科書を読むと、戦後はアメリカへの批判を強める一方、日本が登場するのは下記の一行だけです。古代と同じく、日本史で中国と関わりがない部分については殆ど記述がありません。

アメリカの一極支配がほころびを見せ、世界が多極化していくという記述の中で1か所だけ日本が登場します。

欧洲共同体的成立和发展,日本经济的“起飞”及其要成为“政治大国”的追求,表明以美国为首的西方陈营开始瓦解。下巻 P114

日本語訳

欧州共同体の成立と発展、日本経済の「離陸」と「政治大国」への追求は、アメリカをリーダーとする西側陣営の瓦解の始まりを意味していた。

日本や西ドイツの経済成長によってアメリカ一極集中が少し分散したとは思いますが、それを「西側陣営の瓦解の始まり」と書くところはいかにも中国の教科書という印象です。

戦後の日本は憲法を変更して考え方を改め、軍隊で領土拡張を目論むようなことは一切しなくなったのですが、戦後の日本の変化については一切記載がありません。

以前、中国人と話した時に、日本の現在の政治体制の基礎が作られた明治時代で、戦後の変化についてはあまり理解されていないようでした。

学生時代に中国人の学生と議論したとき

中国人

私達は日本が再び中国を侵略することをとても心配しています。日本が戦争を諦めたのは、アメリカ軍に抑えつけられて中国侵略ができなくなったからでしょう?

中国人

日本は世界中に軍隊を送るアメリカの同盟国だから、機会があればアメリカと一緒にいつでも中国を攻めてくるだろう。中国は日本に攻め込まれないよう国防を強化しなければならないと思っている。

と言われたことがありましたが、議論する中で、戦後の日本の変化があまり理解されていないように感じました。

私が学生として中国人学生と議論したのは2008年頃のことで、インバウンドで大勢の中国人が日本へ来てリアルな日本を知るようになった2024年の今では、流石に日本に対する印象も変わっているとは思います。

中国の日本史理解まとめ

天安門

弥生時代から戦後まで、中国の歴史教科書に書かれた日本史の記述をご紹介しました。

武士という軍事独裁政権による恐怖政治、倭寇、秀吉の朝鮮出兵、そして日清戦争から第二次世界大戦へ至る中国侵略と、日本は常に武力で戦争をしたがる国として描かれており、日本の良いところは1つも書かれていませんでした。

それに対して中国自身を世界平和の建設者として評価しています。

抗日战争的胜利,是近代以来中国抗击外敌人侵所取得的第一次完全胜利,对维护世界和平的伟大事业产生了重要影响,重新确立了中国在世界上的大国地位,使中国人民赢得了世界爱好和平人民的尊敬。这一伟大胜利,开辟了中华民族伟大复兴的光明前景,开辟了古老中国凤凰涅槃、浴火重生的新征程。上巻 P154

日本語訳

抗日戦争の勝利は、近代以来の外国の侵略に対して中国が初めて勝ち取った完全な勝利であり、世界平和の維持という偉大なる事業に重大な影響を与え、中国の世界における大国としての地位を再確立し、中国人民は世界の平和を愛する人々の尊敬を勝ち得った。 この偉大な勝利は、中華民族の偉大な復興という光明のプロローグであり、歴史ある中国の再生という新しい旅路を切り開いた。

第二次世界大战给人类造成了巨大的生命和财产损失,以及难以估量的文明劫难和心灵创伤,但这场世界反法西斯战争沉重打击了侵略者和一切非正义力量,有力地维护了世界和平,彰显了人类正义。在这次战争中,中国人民进行了艰苦卓绝的抗争,付出了巨大的牺牲。中国抗战为赢得世界反法西斯战争的胜利作出了不可磨灭的重大贡献。下巻 P105

日本語訳

第二次世界大戦は人類に巨大な生命と財産の損失をもたらし、計り知れない文明の災禍とトラウマをもたらしたが、この世界反ファシズム戦争では侵略者とすべての非正義の勢力に深い打撃を与え、世界の平和を力強く守り、人類の正義を明らかにした。 この戦争において、中国人民は懸命に戦い、巨大な犠牲を払った。 中国の抵抗戦争は、世界の反ファシズム戦争に勝利するために永久に消え去ることがない重大な貢献をした。

中国が日本に勝ったのは、単に中国にとってメリットがあっただけでなく、悪いファシズムに対する正義の勝利であると書かれています。

ここからが歴史教科書全体のクライマックスです。

中国作为世界和平的建设者、全球发展的贡献者和国际秩序的维护者,为解决人类面临的共同问题,提供了自己的方案。一方面,中国坚持弘扬和平、发展、公平、正义、民主、自由的全人类共同价值,坚持在和平共处五项原则基础上同各国发展友好合作,坚持推动建设相互尊重、公平正义、合作共赢的新型国际关系;另一方面,面对世界百年未有之大变局,面对冷战结束后国际秩序存在的混乱现象和全球治理出现的各种问题,中国倡导构建人类命运共同体,进一步促进全球治理体系变革。

下巻 P143

日本語訳

中国は、世界平和の建設者、世界の発展の貢献者、国際秩序の擁護者として、人類が直面する共通の問題に独自の解決策を提供してきた。 一方では、中国は全人類の平和、発展、公正、正義、民主、自由という共通の価値を発展させ、平和共存の5原則に基づいて各国との友好と協力を発展させ、相互尊重、公正と正義、ウィンウィンの協力に基づく新しい国際関係の構築を推進することを堅持し、他方では、この100年間世界で見られなかった大きな変化に直面する世界に対し、また冷戦終結後の国際秩序に存在する混乱現象やグローバル・ガバナンスに生じた様々な問題に対して、中国は人類運命共同体の構築を提唱し、グローバル・ガバナンスシステムの変革を進めている。

「冷戦終結後の国際秩序に存在する混乱現象やグローバル・ガバナンスに生じた様々な問題」とは、「ソ連が崩壊してアメリカの暴走を止められる国がないから国際紛争が収まらない」という意味だと思います。

ウクライナ紛争も、中国人は「武器を売りたいアメリカがゼレンスキーをそそのかしてロシアを挑発し、アメリカの利益のためにロシアとウクライナの一般市民が犠牲になっている」と理解しています。

日本を含む多くの国では「アメリカは世界の警察」と言われていますが、中国は中国こそが「国際秩序の擁護者」(つまり世界の警察)であるべきだと考えているようです。

「グローバルガバナンスシステムの変革」とは要するに「アメリカを中心に回っている世界を中国中心の世界へ戻したい」という意味だと思います(そうハッキリとは書いていませんが、ここまでの文脈からそう解釈できます)。

2023年3月に中国がイランとサウジアラビアの外交関係正常化の仲介をし、アメリカを震撼させましたが、これも「グローバルガバナンスシステムの変革」だと思います。中華の復興ですね。

日本人がこの文章を読むと「香港やウイグルの状況を踏まえれば、どう考えても中国が世界平和の立役者のわけがないだろう」と考えると思いますが、中国人と話すと「中国こそが世界平和の立役者だ」と本気で心の底から信じていることが分かります。

言論の自由を認めてみんなが言いたい放題のことを言い始めると平和が乱れるので、平和を維持するためには思想統制が必要で、香港やウィグルで国家分裂を図るテロリストや分裂主義者を取り締まることは世界平和のために必要なことだという整理です。

中国は日本人民を批判しない

東京

ここまでで、中国の歴史教科書で日本がどのように書かれているのかご紹介しましたが、中国の日本批判にはポイントがあります。

日本の人民は悪くない

悪いのは日本政府、日本軍国主義であって、日本人民は中国人民と同じく被害者だという考え方です。

ちなみに、共産主義国では国境を越えた人民の連帯を志す国際共産主義の立場から「国民」より「人民」という言葉を好むようです。

具体例を日中関係に関する周恩来中国首相の大山郁夫教授に対する談話から引用します。

周総理 日本の軍国主義者の対外侵略の罪悪行為は,中国人民および極東各国人民に大きな損失を受けさせたばかりでなく,同時に日本人民にもかつてなかった程の災難を蒙らせました。わたしは,日本の平和を愛好する人民がこの歴史的教訓を汲み取り,日本が再度軍国主義化し再度対外侵略をするようなことを許さず,もって日本が再び過去および現在に比べより大きな災難を蒙るようなことを避けさせるであろうと信じています。今日日本人民は,民族の独立をかち取り,再度の軍国主義化に反対するために,勇敢な闘争を行っていますが,中国人民はこれに対し敬意を表しています。

日中関係に関する周恩来中国首相の大山郁夫教授に対する談話 

明治維新の記述で「明治維新では封建的な権力が大幅に維持され、官僚寡頭勢力と軍閥が事実上権力を握り、軍国主義の社会的基盤となった。」と書かれていましたが、これは要するに「明治政府は人民の味方ではなかった」という意味です。

一方、中国共産党は人民の代表であるため、「人民の味方である中国共産党は、日本人民が(封建制力の代表である)日本政府と戦うのを応援します」と言っているのです。

「戦時中の日本政府が日本国民のことを考えていなかったですね」と言われれば、「まぁ確かに」と納得する日本人も多いと思いますが、中国から見ると日本人が可哀想なのは戦後も変わらないようです。

日本の人民は可哀想な存在

繰り返しになりますが、中国は「資本家(≒金持ち)は労働者(≒貧乏人)の上前をはねて生活するので、資本主義は金持ちが貧乏人から搾取するのを肯定する仕組みだ」という世界観です。

トマスピケティの「21世紀の資本」で「r>g」と示されましたが、資本家がお金持ちになるスピードの方が世界経済の成長速度より早いので、資本主義では金持ちがどんどん金持ちになります。

資本主義の国で政治家になるにはお金がかかり、金持ちしか政治家に当選できないので、資本主義の政治体制では金持ちに有利な法令が定められ、金持ち優遇の政治が行われます。

この流れを止めるには人民の代表である共産党が権力を取って独裁(人民民主独裁)を行う必要があり、社会主義政権にこそが搾取を止めることができる、というのが中国の考えです。

世界最大の資本主義国はアメリカで、日本政府は事実上アメリカの傀儡政権なので、中国にとって日本の人民はアメリカ資本主義からの搾取に苦しんでいる可哀想な存在です。

中国政府の見解では、日本には米軍基地が置かれ、日本政府はアメリカに逆らえないため、日本の人民はアメリカから搾取され続けています。

資本主義国である日本の政府は日本人民の味方ではなく資本家や封建勢力の味方なので、人民を代表している中国共産党こそが日本人民の痛みを理解することができると考えているようです。

もう少し踏み込んで言うと、「中国は可哀想な日本人民をアメリカの支配から救出しなければならない」と考えている可能性もあります(そこまではハッキリとは言っていませんが)。

これも、先ほど引用した1953年の周恩来のコメントに書かれています。

今日日本人民の面前におかれているものは,二つの異った前途であります。一は米国の従属国の地位にある軍国主義の日本で,これは日本の反動勢力が要求しているものであります。他の一つは独立,平和,民主,自由の日本で,これは日本人民の奮闘の目標であります。今日の情勢は,日本人民にとって有利であります。二つの前途は長期の闘争を経過しなければならないが,われわれは,日本人民は必ずや最後の勝利を獲得できると信じています。

中国人民は,外国軍隊に占領されていることによって水火の苦しみに陥っている日本人民の苦痛を深く理解しています。このような苦痛は,日本の歴史にいまだかつてなかったものであります。中国人民は,日本人民がその祖国の新生と独立を獲得できるよう希望し,日中両国が平和共存の基礎の上に真に共存共栄できるよう希望しています。

日中関係に関する周恩来中国首相の大山郁夫教授に対する談話 

「中国人民は」と書いてありますが、中国人民を代表しているのは中国共産党とされています。

日本人からすれば「いやいや、中国が日本に攻めてくるのが怖いからアメリカ軍が必要なんですけど...」と言いたいところですよね。

しかし中国から見ると「日本人民はアメリカから搾取されて可哀想だから、世界文明の中心であり、資本主義よりも先進的な国家体制である社会主義の中国が日本人民を助けなければならない」となります。

日本人

そもそもベルリンの壁とソ連が崩壊した時に社会主義陣営の負けが確定したから、中国は独裁体制を維持したまま経済だけ資本主義に転換したんじゃなかったの?

中国は、計画経済が挫折したので市場経済へ転向しただけで、社会主義が資本主義に負けた訳ではなく、中国の社会主義市場経済は資本主義ではないと主張しています。

日本人にとっては言葉遊びのように思いますが、中国にとって資本主義と社会主義市場経済の違いは極めて重要で、この違いが香港の一国二制度にも関係してきます(別の記事でまとめたいと思います)。

中国のG7批判

「日本人民は資本主義のアメリカや日本政府から搾取されている」と言う世界観は、2023年5月に開催されたG7広島サミットに関する中国での報道にもよく表れていました。

このツイートで書いた通り、中国は日本全国各地のG7反対運動を大々的に取り上げ、まるで日本人の多くがG7に反対しているかのように報道していました。

また“G7已沦为美国实现大国竞争的工具”(G7はアメリカの覇権競争の道具に成り下がってしまった)という表現からも、アメリカがG7を通じて世界を支配しているという主張が読み取れます。

ウクライナやパレスチナに関する報道でも、中国では一貫して「アメリカは世界に武器をばら撒いており、世界中で罪のない人々が殺されている」とアメリカの軍事支援を批判しています。

マルクス主義の世界観では、G7は資本主義の搾取システムの最高峰に君臨しているので、「G7は全世界の人民からの搾取を目論んでおり、日本人民がその搾取に抵抗している」という構図を作りたいのだと感じます。

日本人の我々は「日本の政治家は国民全員で選挙をして選んでるのだから、日本政府は国民を代表しているでしょう」と考えます。

しかし社会主義の論理では、資本主義国の政治は金持ちのために行われるのが常で、社会主義の政府こそ全人民の利益を代表していると理解されています。

中華思想×マルクス主義

このマルクス主義的な世界観を中国伝統の中華思想(華夷思想)に代入すると、

今の世界は野蛮な欧米人が築き上げた資本主義の搾取システムで成り立っているから、中国が世界一の地位へ復活し、資本主義よりも優れた中国式社会主義を世界へ広め、世界の人民をアメリカの搾取から解放し、中国が世界平和の立役者とならなければならない

となります。これが正に、中国の歴史教科書の最後に書かれていたメッセージですね。

このメッセージは多くの中国人の愛国心に火をつけます。

「情報統制のせいで、中国人は欧米や日本のことを知れない」ではなく、西側の議会制民主主義や三権分立を知った上でも、それよりも中国の政治体制の方が優れていると教育されているのです。

日本では「日本は平和主義の国」と教わり、選挙制度や言論の自由、三権分立を神聖不可侵な価値観として教わります。

中国では、日本人が大切にしている様々な価値観が、真正面から全面的に批判されています。

中国の視点を知った上で、改めて日本の歴史や民主主義の価値観について学んでいきたいです。

日本人には理解が難しい中国の歴史観

古代から現代まで、日本の歴史が中国の高校歴史教科書でどのように記述されているかをご紹介しました。

中国の歴史教科書は中国中心主義(いわゆる中華思想)とマルクス主義的な世界観が混ざり合い、日本人にとっては非常に理解しづらい内容になっています。

中国の歴史や価値観を知れば知るほど「相手の立場に立って考える」ということが本当に難しいことを実感します。

中国への理解を深めることを通じて「相手の立場に立って物事を考える」トレーニングを積めば、日常の仕事や家庭生活でも大いに役立つはずです。

中国を深く理解できるオススメの本について以下の記事でまとめていますので、興味のある方はぜひご一読ください。

中国関連本を200冊以上読んだ私がオススメする中国を理解する本 10選

本屋に並んでいるセンセーショナルなタイトルで内容の薄い本には満足できない方にオススメです。

スポンサーリンク