インドの生活は日々カルチャーショックの連続、というイメージがあると思います。
それはその通りですが、具体的にどういったカルチャーショックを受けるのかイメージがつきませんよね?
この記事を読めば、インドの生活でどれほど強烈なカルチャーショックを受けるのか追体験をすることができます。
これは、私がインドで初めて外国人登録(FRRO)の手続きをするために警察へ書類を申請したときのエピソードです。
インドへ来ると、まずは外国人登録(FRRO)手続きが必要です。FRRO手続きについては下記記事をご参照ください。
上記記事にも書きましたが、FRRO手続にはかなりの覚悟が必要です。
中でも、私が最も困難だったのが”Tenant Verification”という書類を地元の警察署から取得することでした。
これは住居の賃借人(つまり私)に犯罪歴がないことを証明する文書で、こちらで書類に必要事項を記載して警察署でスタンプをもらわなければなりません。
警察署からTenant Verificationを取得して入国管理局(FRRO)へ提出しなければ、外国人登録の手続きが完了しません。
この体験はあまりにも壮絶でした。
この記事を読んで
Contents
必要書類とスケジュールの事前確認
Tenant Verificationの取得のために必要な書類を確認しようと思い警察署に電話しましたが、英語が聞き取れなかったので9月6日(木曜日)に警察署へ行きました。警察署と言っても平屋のファミレスみたいな狭い建物で、中には5人くらいの警官がいました。
「この程度の事務処理なら、いちいち警察署長がやらなくても権限委譲できないものか」と思いましたが、仕方ありません。
警察署長からサインをもらうまで
ここからが地獄でした。申請用紙に警察署長からサインをもらうだけのことだから簡単なことだろうと思っていたら、とんでもない間違いでした。
<9月8日(土曜日)>
午前10時になって警官Aに電話しました。
そして午後2時
そして午後6時
そして午後8時
要するに、警察署長のスケジュールは誰も把握しておらず、共有もされておらず、警察官も署長がいつ来るのかは分からないようでした。
最初の「土曜日の午前10時に来い」というのもテキトーに言っているだけだったようです。
<9月9日(日曜日)>
朝10時にまた警官Aに電話をしたら「今から来い」と言われたので警察署へ行きました。
外を見ると、20人くらいのインド人が座っていました。とにかく早く終わらせたかったので「今日は何時まででもいいから署長が来るまで待ってやる」と思い、座って待ちました。
いつ署長が来るか分からないので昼を食べに行くわけにもいかず、飲まず食わずでトイレにも行かずに待っていたところ、5時間経過して午後3時になりました。
午前10時から待っているインド人20人はその時点でも全員同じ椅子に座っていました。全員署長を待っているようです。みんな喋ったりボーっとしたりしていましたが、充電が切れたのか携帯をいじっている人はいませんでした。
そのとき、警官AとBがチラリと私の方を見て顔を見合わせ
という顔をしました。そして私は警察署の中に呼ばれました。
午後7時に再訪すると、なんと!朝の10時にいた20人のうち15人はまだ同じ椅子に座って待っていました。
そして警察署の中に入ると警官AもBもCもいませんでした。
ここで私は「ヤバい失敗した」と思いました。何故なら、書類を預けた警官Cの名前を控えていなかったためです。
日本の感覚で「当然署内で申し送りされているだろう」と考えていたのが甘かったです。インドで誰かに何かを預けたら、名前を控えておくのは必須です。
警官Cがいつ来るかも分からないので、もう一度申請書類をゼロから作り直して1から出直さなければならないかと諦めた瞬間、奥から警官Cが出てきました。
そこで私は「あの人に書類を渡した」と叫び、警官Cのところに行きました。サインが終わっているかと期待したところ、何も終わっておらず、書類は警官CからDへ手渡されました。
その後、更に2時間経って、午後9時頃になって警官Dのところへ行くと
ということで、今度はきちんと警官Dの名前を控えました。
<9月10日(月曜日)>
午後7時に警察署へ行きました。すると警官Dの姿はなく、その場にいた警官Aに「警官Dに午後7時に来るように言われて来たんだけど」と言うと「警官Dは午後8時まで忙しい」と言われました。
仕方がないので午後9時まで待つと警官Dが出てきたので、私は警官Dに問い詰めました。
ということで、私は警官Eの名前を控えて帰りました。もはや私の方が完全に立場が上になっていて、上から目線で言いたい放題でした。しかし、彼らも絶対に謝罪はしません。
代わりの文書を提出
私は毎日何時間も警察との戦いに時間を浪費しており途方に暮れていたので、いろんな方にこの状況を相談しました。
すると、インド在住の知り合いから
という衝撃的なアドバイスを頂きました。「役所に提出する書類は漏れなく正確に準備してから期日通りに提出する」という日本の常識に囚われていた私は強いカルチャーショックを受けました。
「インドに来て人生観が変わるとは、こういうことか」と驚きましたが、ここに来て逆にインドの役所がどこまでテキトーなのかを確認したくなりました。9月10日(月)の夜のことです。
そこで、その時たまたまパソコンで開いていた「長野県のモスバーガーで食中毒」という日本語のニュースをPDF化して、インド警察署発行のTenant Verificationの代わりとしてインドの入国管理局(FRRO)へ提出しました。
やっと警察から証明をもらえた
<9月11日(月曜日)>
入国管理局にモスバーガーのニュース記事を提出した翌日、朝9時に警察署へ再訪したところ、「9時にいる」と約束したはずの警官Eはおらず、警官ABCの3人が私の顔を見た瞬間にザワつきました。
私は既に警察署にいる警察官の顔をほぼ全員覚えており、向こうも私が昨晩騒いだせいで「面倒な奴だ」と認識したようです。
と言うので、外で5分だけ待って中へ入り
と言ったところ、警官ABCが3人で
この↑書棚の書類の山から私の書類を探していました。
私が“Have you lost?(なくしたの?)”と聞くと”No!No!No!”と言い、必死に探しています。
と朝から怒鳴り散らしたくなったものの、警官もあまりにも必死で大変そうだったので、見つかるまで待ちました。
20分くらい経って警官Bが書類を発見し、確認するとサインも完了していました。
ようやく私はTenant Verificationを受け取ることができました。
書類は結局、机の一番分かりやすいところに置いてあったのですが、その上にどんんどん違う書類を積んでいたので埋もれていました。その日は警官にお礼を言って帰りました。
なお、受け取ったTenant Verificationを見ると私の生まれが2098年になっていました。いまマイナス80歳です。
Tenant Verificationは必要なかった
こうして警察から正式にTENANT VERIFICATIONをもらいましたが、入国管理局からの要求があるまで書類の再提出ができないシステムになっていたので、「モスバーガー食中毒」の記事を正式なTenant Verificationへ変更することができませんでした。
すると2~3日後に入国管理局からTenant Verificationが承認された旨の連絡がありました。
つまり、「モスバーガー食中毒」という日本語のニュース記事が外国人登録の書類としてインドの入国管理局に承認されたということです。この適当さは想像を絶します。
言い換えると、タクシー代を払って警察まで行ってギャーギャーと喧嘩をした時間は全て無駄だったということでした。
それでも憎めないインド人
後日、気分転換で海岸へ散歩に行ったところ、ヒンドゥー教のお祭りだったため浜辺に警官が大勢おり、色んな警官からニコニコと
「おー!あの時の日本人じゃないか!」
「元気にしてるか?」
「チェンナイの生活は慣れたか?ご飯はちゃんと食べてるか?」
「海を楽しんでいってくれ!」
と声をかけられました。
私はあのとき警察署で警官たちに
「約束を破ったあなた達はウソつきだ」
「あなた達のせいでインドの印象が悪くなった」
「あなた達のことは信用できない」
などと言いたい放題キツいことを言ったつもりだったのですが、本人たちは全く気にしていない(むしろ覚えていない)らしく、友達のようにフレンドリーに接してくれました。
この警官達が鬱病になって悩むということは絶対にないだろうな・・・と思いました。
インドも広いので地域によって気質が違いますが、チェンナイの人は
- 人の言うことが頭に入っていない(南国気質?)
- 頭に入っていないから気にしない
- 気にしないから根に持たない
という、「成長しないだろうけど病むこともないだろう」という印象を受ける人が多いです。
警官たちにしても、効率が悪いだけで、意地悪をしているわけではないのでどこか憎めません。
この警察とのやり取りから分かる通り、インドでは英語で自分の意見をどんどん主張していかなければ生きていけません。必然的に英語力と交渉力が伸びます。
大声を上げて目立つ行動を取っても話の筋が通っていれば軽蔑はされません。むしろ目立っていかなければ黙殺されてしまいます。
インド警察について補足
Tenant Verificationについて
なお後日聞いたところによると、別の警察署では10分で書類を受け取れたそうです。
申請書類に担当者がサインして終わりです。署長のサインなどは必要なかったそうです。
また警察署によっては証明書発行の代わりに賄賂を要求してくるところもあるそうです。
金額は場所によって異なりますがRs500~1,000程度という噂です。
正直なところ、5時間も6時間も待たされるよりRs500ルピーですぐに発行してくれた方が個人的には助かります。
この、役所によって、人によって、気分によって対応がバラバラというのもインドの特徴です。
警察の対応の酷さについて
インド警察の対応の酷さについて書いているブログがありましたのでご紹介します。
同僚は三ヶ月前にバイクを盗まれ、警察に盗難届を発行してくれるよう毎日依頼しているようですが、『また明日来て』の繰り返しで、一向に発行してもらえないとのこと。
意図がわかりません。
インド人にとって大切な足であるバイク。一つのバイクが家族四人の移動手段であるインド人家庭にとって、バイクがないと生活が出来ません。
盗難届をもらえないと保険もおりないので非常に困っていました。
何と既に、警察に毎日通い続けて三ヶ月も経ってるとのこと。
こちらの警察はマヌケなのではなく悪意があるようですが、いずれにしても酷い対応であることには変わりありません。
外国人の場合には、あまりにも酷かったら大使館・領事館へ相談した方が良いかも知れません。
とても酷い話ですが、役所や銀行などの大きな組織以外ではここまで酷いケースは少ないです。どうして役所ばかり酷い人材が集まっているのかと憤っていたところ、どうも背景には低いカーストの人達を優遇する政策(Reservation)があるようです。
低いカーストの人達を優遇するため、優秀な高カーストよりも成績の悪い低カーストの人達が優先的に採用され、結果として役所の効率が著しく悪くなっている、という可能性があります。
インドのカースト制度に関してはインドに1年住んで感じたカーストの見分け方と差別の実態という記事でまとめていますのでご参照ください。