【現地レポ】2022年12月中国広州でのゼロコロナ解除と感染拡大・収束

私は2022年11月に中国の広州へ渡航し、年末まで怒涛の1か月間を過ごしました。

日本でも大々的に報道されましたが、たった1ヶ月の間にロックダウン強化→抗議デモ→ゼロコロナ緩和→感染爆発と、目まぐるしく状況が変わりました。

この1か月間に中国広州で経験したことをレポートします。

なお、中国へ入国してから隔離が解除されるまでの様子は【2022年11月】中国広州の入境者8日間集中隔離【経験レポート】の記事でレポートしていますので、今回の記事はその続きです。

今回は、隔離明けから年末までの様子をご紹介します。

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毎日のPCR検査

PCR検査

こちらの記事で書いた通り、私は11月17日の午前10時に入国者集中隔離が解除されて自宅から初めて外へ出ました。

中国では毎日PCR検査が必須だった

マンションの管理人から「今日はPCR検査が午後1時までなので、必ず受けてください」という連絡がありました。

当時の広州では全ての住民が毎日PCR検査を受けなければなりませんでした

中国は武漢で感染が発生した当初から、全国民に対して徹底したPCR検査を実施していました。

コロナの流行が始まった当初は、テレビ朝日の「羽鳥慎一のモーニングショー」で玉川徹さんがよく「日本も全国民にPCR検査を実施して、陽性者は隔離し、陰性者は普通に経済活動をさせるべきだ」と訴えていたのを覚えています。

感染の状況に応じて、PCR検査の頻度が毎日になったり週に1回になったりと変動はありますが、いずれにしても中国では徹底的にPCR検査を実施します。

健康コードの仕組み

まずはWeChat(日本でいうLINEです)アプリで健康コードのアカウントを作成します。

PCR検査を受けて結果が出ると、健康コードに「24時間以内陰性証明」と表示されます。

PCR検査の結果が出てから24時間が経過すると、健康コードの表示が「48時間以内陰性証明」に切り替わります。

当時の中国では、地下鉄でもバスでもスーパーマーケットでもオフィスビルでもどこに入場するときにも48時間以内陰性証明が必須でした。

48時間を過ぎてしまうと「72時間以内陰性証明」に変わってしまい、そうなるとスーパーや地下鉄構内には入場できません。

※但し、地域や感染状況によって、24時間陰性証明が必要になったり7日以内陰性証明で良くなったりと変わるようです。

全てのスーパーやデパート、地下鉄の出入口に陰性証明をチェックする人が配置されていたのですが、短期間でこれだけの人を配置できるのは凄いことです。

12月にゼロコロナが解除され自由にスーパーやショッピングモールへ入れるようになってから出入口は無人になりましたが、ゼロコロナ時代に陰性証明を確認していた人たちが失業していないか心配です。

スーパーや地下鉄では、係員に陰性証明を見せるだけでなく、入口に表示されているQRコード(場所コード?)のスキャンもしなければなりません。

このQRコードが自分の健康コードと紐づけされ、誰がいつどこへ行ったのか追跡できる仕組みになっています。

もし自分がモールへ行ったタイミングでモールに陽性者がいたら、濃厚接触者として隔離されることになります。

上海では、ディズニーランドで1人陽性者が出ただけで入園者全員のPCR検査が終わるまで外に出られなくなったなどという噂もありました。

全てWeChatで管理されていますので、WeChatアプリをインストールしなければ買い物にすら行けません。

日本ではLINEを使っている人が多いですが、中国におけるWeChatの重要性は桁違いです。

中国でWeChatを使わなければ文字通り生きていけません。

日本であれば

全国民にWeChatでの陰性証明提示を義務づけたりしたら、スマートフォンを使いこなせないお年寄りはどうするんだ!

などと反対意見が噴出しそうですが、中国では80代のお年寄りにも容赦なくスマホでの陰性証明提示を求めます。

初めてのPCR検査

PCR検査

中国へ入国後、ホテルや自宅でPCR検査を受けたことはありましたが、11月17日に隔離が解除された日、私は初めて全住民と一緒にPCR検査を受けました。

PCR検査場は市内の至るところに設置されており、どこでも良いので近くの検査場に並びます。

早い日で30分、長い日には1時間以上も並ぶことがありました。

私は集中隔離中、既に健康コードを作成していたので、自分のQRコードを入口の係員に提示しました。

係員が私のQRコードをスキャンすると、私の健康コードに表示されるステータスが「検査中」になります(実際は、ステータスが切り替わるのに4時間くらいかかります)。

そのあと、更に列を進んでいくと、検査官に検体を採取されて、終わりです。

このPCR検査は1人ずつ検査していると時間もお金もかかるので、10人分を一緒に検査します(混採)。

つまり、たまたま一緒に並んでいた前後10人のうち1人でも陽性者がいれば、当局に呼び出されて病院で個別PCR検査を受けることになります。

検査結果が出ると健康コードに「陰性」と表示されますが、11月17日の午前11時に受けたPCR検査の陰性結果が出たのは翌11月18日の午前3時でした。

検査を受ける方も大変ですが、検査する方も本当に大変です。

私は毎日、お昼を過ぎてちょっと眠くなってきた午後3時頃にオフィスを抜けて、コーヒーを片手に会社近くのPCR検査場に並びました。

日本にいた頃は毎日PCR検査を受けるなんて信じられませんでしたが、慣れて生活サイクルの一部になるとちょうど良い気分転換になりました。

陽性になるとどうなるのか?

ある日、用事があって少し郊外へ足を運んだところ、とても物々しい雰囲気で塀が築かれていました。

恐らく、ここがロックダウンの地区だったようです。

聞いた話によると、もし1人でも陽性者が出たら同じ職場やマンションの人達も全員濃厚接触者として隔離施設送りになるようです。

そして、地区全体が数万人規模でロックダウンされることも珍しくないようです。

オフィスで陽性者が出たら、その会社の同僚だけでなくオフィスビル全体の従業員が濃厚接触者となり、会社が営業休止になります。

私は前月(10月)には日本で大勢の外国人観光客がマスクなしで京都観光をしている光景を目の当たりにしていましたし、私自身が既にコロナの感染歴もあるので、あまりコロナは気にしていませんでした。

しかしコロナに感染すること自体よりも、感染した結果として隔離施設送りになることの方が心配で、中国国内ではコロナ感染を厳重に警戒しなければなりませんでした。

既に緩和の動きがあった

11月初旬から広州では感染者が増加し、中国全土でも感染者数が最多を記録していたので、陽性者全員を隔離するゼロコロナ政策は既に限界を迎えていました。

そこで、当時から既にゼロコロナ緩和の動きはありました。こちらの記事で書いた通り、11月11日は入国者の隔離期間が10日から8日へ短縮されました。

これは日本のニュース記事で読んだ話ですが、中央政府としては緩和を進めていきたい気持ちはあったものの、「もしゼロコロナを緩和したら100万人単位での死者が出る」という予測もあったため、「ゼロコロナを緩和します」と明言するのは避けました。

中央政府は「ゼロコロナを緩和しろ。しかし感染拡大は抑えろ」という方針だったので、自分の地区から陽性者を出して責任を追及されることを恐れた地方政府が、1人でも陽性者がいれば地区を丸ごとロックダウンするという手法を取り続けたようです。

中央政府としては、地区を丸ごとロックダウンするという粗雑な対応ではなく、陽性者を1人ずつ洗い出して丁寧に隔離するという措置を地方政府に取って欲しかったようですが、地方政府はそこまで丁寧な対応をする余力がなかったようです。

以上は日本のニュース記事で読んだ話なので本当かどうか知りませんが、私の身近で起こっていたことから推測する限り、恐らくそうだったんだろうなと感じます。

11月20日 ワールドカップ開催

ワールドカップ

11月20日からカタールのワールドカップが始まりました。

中国はワールドカップに出場していませんが、スポンサーとして協力していることもあり、中国でもワールドカップは大々的に宣伝され、全試合が実況中継されていました。

私も、広州の街中でワールドカップの広告をチラホラ見ましたし、中国のニュースポータルサイトにもワールドカップの話題がトップに上がっていました。

このワールドカップは東京や北京オリンピックのような無観客試合ではなく、満員の観客がマスクなしで密になって騒いでいたため、多くの中国人が衝撃を受けたようです。

あまり中国では海外の状況が報道されておらず、世界もまだコロナに苦しんでいると思っていたようなので、カタールでコロナが終わっていることを知ってビックリしたようです。

しかしさすがにワールドカップの中継を中止するわけにはいかないので、政府から「あまり観客席のアップ映像を流さないように」という通達が出たという報道もありました。

私は11月27日の日本 VS コスタリカ戦を観戦したとき、日本のABEMA TVと中国のCCTVの中継を横で並べて見ていたのですが、中国の放送の方が30秒くらい遅く中継され、確かに観客席のアップ映像が映らないように配慮されていました。

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11月24日~30日 各地で抗議デモが発生

日本でも大々的に報道されましたが、11月24日にウルムチ市のロックダウン地区で火災が発生したとき、マンションの入り口が封鎖されていたため逃げることができず、消火活動が遅れたという噂がSNSで流れました。

この件をきっかけに中国各地で学生を中心に抗議活動が発生し、大きな盛り上がりを見せました。

日本の報道を見ていると、中国の全国民が立ち上がり、いよいよ政権が転覆されるのではないかという印象でした。

日本の知り合いから続々と

中国全土でデモが発生していると聞いたけど、身の安全は大丈夫なの?日本へ避難した方が良いんじゃないの?

と安否を気遣う連絡を頂きました。

しかし実際には、デモが起こっているのは一部地域です。

広州では海殊区という地域で数百名規模のデモがありましたが、広州の面積は東京の3倍あり、人口は東京とほぼ同じです。

東京で例えると、八王子の住宅街の一部で数百人がデモをしていても23区内の生活には全く影響がないのと同じようなものです。

しかもデモの件について中国では全く報道されていなかったので、多くの中国国民は知りません。

SNSを頻繁に見ている若い世代は知っていますが、テレビだけ見ている世代は知りません。

11月21日 外食が禁止される

買い付け

厳重なロックダウンを敷いているにも関わらず、感染者の拡大は全く収まらず、広州でもロックダウンの地域がどんどん広がって止まるところを知りませんでした。

私が住んでいた地域は何とかロックダウンを免れていたのですが、11月21日から外食が全面禁止され、テイクアウトとデリバリーのみ利用可能という状況になりました。

そして11月29日には、遂に私が住んでいる地域もロックダウンになるのではないかという噂が流れ、スーパーには買い占め客が殺到し、商品の棚が空になっていました。

私も念のため、3ヶ月くらい籠城できるようにイワシの缶詰や冷凍食品、ナッツ、インスタントラーメンなどを買い込みました。

広州ではロックダウン地域でもデリバリーが動いていたのですが、2022年の4月~5月に上海で行われたロックダウンではデリバリーまで停止され、食料は配給を待たなければならなかったそうです。

広州でも上海と同レベルのロックダウンが実施されないという保証はないため、戦々恐々です。

私は2020年3月にインドでロックダウンを経験した時、デリバリーが停止してかなり困窮していたので(それでもスーパーへ行けるだけマシでしたが)、デリバリーの停止は非常にトラウマです。

12月1日 広州のみPCR検査取りやめ

PCR検査場

状況が急変したのは12月1日でした。

突然の緩和発表

感染者の増加が止まらず「いよいよロックダウンになるか?!」と身構えていた11月30日の深夜、突然「広州では明日からPCR検査をやりません」という発表がありました。

海外の報道に接していた人は「抗議デモを受けて方針を転換したんだな」とピンときましたが、海外の報道を見ていない人は突然の方針転換に戸惑ったと思います。

毎日のPCR検査がなくなったので、当然ながらショッピングモールや地下鉄へ入場する時に陰性証明書を提示する必要もなくなりました。

市内各地のPCR検査場はテントのみが残され廃墟となりました。

11月30日まで広州の多くの地域がロックダウンされていましたが、一斉にロックダウンが解除され、移動も自由化されました。

つまり、日本と同じくマスクさえしていれば良いという状況になりました。

12月1日の夜は街中が解放感に溢れ、多くの飲食店が満員御礼で賑わっていました。

広州以外は引き続きゼロコロナ

広州のゼロコロナ緩和は全国に先駆けた試験的な導入だったようで、日本の報道でも「広州市でゼロコロナが緩和されました」というニュースが大々的に報道されました。

しかしPCR検査が不要になったのは広州市内だけで、他の省や都市へ行くときには引き続き陰性証明書が必要でした。

私は出張で他の都市へ行く機会があったのですが、PCR検査を受けるのに苦労しました。

11月30日までは全広州市民の約1500万人が毎日PCR検査を義務づけられていたのに対し、12月1日からは突然PCR検査を受けたくても受けられない状況になってしまいました。

同僚に頼んで病院を予約してもらい、行ってみたところ大行列で1時間半待ちとなりました。

しかも、11月末までのPCR検査は無料でしたが12月に受けたPCR検査は13元(約250円)かかりました。

全市民の検査と違い、体調の悪い人が受ける傾向にあるので、PCR検査場でコロナに感染するリスクが高くなりました。

12月6日 職場でコロナの感染者が発生

12月6日、遂に私の職場でもコロナの陽性者が発生しました。

もしゼロコロナ政策中にコロナへ感染したら大惨事でした。11月に陽性者が出た場合には

  • 陽性者本人だけでなく、濃厚接触者と、濃厚接触者の濃厚接触者まで集中隔離
  • オフィスビルやマンション全体をロックダウン
  • 場合によっては地区全体の数万人をロックダウン

という厳重な措置が講じられました。

陽性者本人や濃厚接触者は自宅隔離が許されず、隔離施設へ移送されました。

11月中旬に「濃厚接触者の濃厚接触者は自宅隔離でも良い」というような通知が出た記憶があります。

ゼロコロナ解除後に陽性者が発生した場合の措置はよく分からなかったので、果たしてどのような状況になるのか、戦々恐々でした。


実際には、このツイートの通りで、オフィスビルの係員がオフィスへ来て、感染者の席の周りを少し消毒しただけで終わりでした。

たった1日でここまで変わるというのが中国です。

12月8日 全国でPCR検査と健康コード廃止

12月7日より「オミクロンは弱毒化しており重症化リスクが低い」として、広州に続き全国でPCR検査と健康コードが廃止されました。

全国どこでも自由に移動できるようになり、本格的にウィズコロナへ移行しました。

当時、日本では11月の抗議活動を受けて「習近平の支配体制が揺らいでいるのではないか?」「民主化を求める動きがあるのではないか?」と報道されていました。

しかし実際には、中国政府がゼロコロナを解除したことで、むしろ「中国政府は国民の声に耳を傾けて柔軟に対応する素晴らしい政府だ」という雰囲気が強くなったようにも感じます。

私個人の意見ですが、中国の若い人たちの多くはゼロコロナ政策に反発していただけで、決して中国の政治体制を変えたいと思っていたわけではないように思います。

外国人から見ると「オミクロンの流行は今に始まったことではなく、もっと早く解除できたのでは?」「ゼロコロナを解除するにしてもハードランディング過ぎるのでは?」など、突っ込みたいことは色々あります。

しかし長年に渡り厳しいゼロコロナ政策を強いられてきた中国国民にとっては、まずは目先の不自由さから解放されたことが何よりも嬉しかったと思います。

12月10日~23日 感染の大爆発

12月1日から9日頃は、感染拡大に対する警戒心も強かったものの、それよりも厳しいゼロコロナ政策の統制から解放された喜びの方が大きかったようで、街は多くの人で溢れていました。

街中の多くのレストランではマスクをしていない人達が大声で騒いでいました。

ところが、12月10日頃から様子が一変しました。

私が勤めている会社は20名ほどスタッフがいるのですが、なんと私以外の全員が感染しました

しかも無症状の人は誰もおらず、全員が発熱で寝込んで出社できなくなってしまいました。

私は既に日本で感染していたので免疫があったようです。知り合いの話を聞いても、日本で感染歴がある人以外はほぼ全員寝込んでいました。

私が勤めている会社だけでなく、取引先の人達も軒並みダウンしてしまったので、全く仕事がありませんでした。

私はこの週に中国での銀行口座の開設をしようと思ったのですが、10店舗以上を回っても軒並み閉店していました。

支店の従業員がみんなダウンしてしまい業務が回らなくなったようです。

3時間以上も探し回ってやっと営業している支店を見つけましたが、他の銀行が閉店しているせいで長蛇の列になっており、口座を開設するだけで丸一日潰れてしまいました。

ショッピングモールへ行っても(従業員の感染により)お店は半分くらい閉店しており、とても閑散としていました。

12月24日 広州では感染終息

北京路

12月10日から約2週間はコロナの感染が大爆発し、本当に街は閑散としていました。

日本でも中国での感染爆発が大々的に報道されており、「6億人が感染したのではないか?」などと言われていました。

ところがクリスマスの週末(12月24日の土曜日)になると、閉店しているお店はなくなり、街を歩く人が多くなってすっかり活気を取り戻しました。

12月10日から24日頃の2週間で広州の人達はほぼ全員感染したのではないかと思われるほどです。

日本では年末年始にかけて連日、中国の悲惨な感染状況が伝えられていましたが、少なくとも広州については「コロナは終わった」という雰囲気になりました。

私は日本やインドでも感染爆発を経験しましたが、ここまで一瞬で感染が大爆発し、一瞬で収束したのは初めての経験でした。

中国の面積は日本の26倍あり、人口は10倍以上あるので、広い中国では地域によって全く状況が異なると思いますが、私のミクロな経験をご紹介しました。

中国はトップダウンで臨機応変に対応する国

日本では新しいことを始めるときに、何か問題が発生しないか十分に検討してから改革をするので、とても時間がかかります。

急な変更による混乱が生じないというメリットがありますが、デメリットとしてはコロナのような急速な変化には対応しづらいです。

逆に中国はトップダウンで物事が決まり、トップの意思が末端まで貫徹されるので、日本では考えられないような急な変更が生じますし、トップが判断を間違えると尋常ではない被害が生じます。

しかし、コロナが感染拡大すれば一気に抑え込みができるなど、独裁国家でこそのメリットもあります。

どちらのメリットが大きいかは状況によって異なると思いますが、この違いは政府だけでなく日本企業と中国企業にも表れているように感じます。

その辺りの文化の違いについては、エリンメイヤーの「異文化理解力」に詳しく書かれています。


今回の中国でのゼロコロナ政策転換を現地で目の当たりにして、この本に書かれていることの正しさを実感しました。

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