香港での留学や生活を検討している方に向けて、香港の生活環境や物価、また言論の自由の状況などについてご紹介します。
私は中国広州に在住していますが、香港は広州から高鉄(新幹線)で1時間半ほどの距離にあり、コロナ規制緩和後は広州から香港へ気軽に行けるようになりました。
香港と言えば、コロナ前の2019年に発生した国家安全法の反対デモと、翌2020年の中国政府の強行採決が世界ニュースとなりました。
そこで、生活環境に加えて、言論統制の状況なども、中国本土に住んでいる私の視点でご紹介します。
Contents
日本の商品や日本語が溢れる香港の街
この写真は香港のドン・キホーテの写真です(2023年1月)。日本人客は少ないですが、それでも平仮名で「あけましておめでとうございます」と書かれています。
中国本土でこの看板を出せば反日的な人からクレームが来そうですが、香港では歓迎されています。
私が初めて香港を訪れたのは2014年で、当時から香港は日本のレストランや商品が多かったですが、2024年の今は驚くほど増えました。
10年前くらいは「台湾は日本の店や商品、香港は欧米の店や商品が多い」という印象でしたが、今の香港はもはや台北と変わりません。
地下鉄のほぼどの駅で降りても何かしら日本料理店があり、日本の商品が売られていて、日本語を見かけます。
日本と変わらない生活を送ることができ、日本人にとっては本当に有難い環境です。
無印良品、ユニクロ、セブンイレブンはもちろんのこと、ドン・キホーテ、スシロー、大戸屋など何でもあります。
ラーメンだけでも、札幌ラーメンや博多ラーメンだけでなく横浜ラーメンまであります。
中国本土では中国製品の品質向上と愛国主義の高まりによって日本ブランドの地位が低下していると言われていますが、香港人の日本愛は上がる一方です。
中国本土でも日本の化粧品は見かけますが、ポスターは中国の俳優さんや女優さんです。
一方の香港では、本田翼さんや綾瀬はるかさん、DAIGOさん など、日本で見慣れた顔のポスターを見かけました。
香港に住んでいる知人が香港人から聞いた話によると、中国政府への反発から「アジアの自由主義陣営の代表」である日本への関心が高まっているそうです。
なんと香港では日本へ行くことを「返郷下(故郷へ帰る)」と呼ぶそうです(中国本土の人が聞いたら激怒するでしょう)。
コロナ直前の2019年には、香港の人口が約750万人なのに対して日本への香港人観光客が延べ220万人に上ったそうです。
約3人に1人が日本旅行をしていた計算になります。
コロナで日本へ行けなくなってしまったので、日本への恋しさを癒すため、香港に日本のお店やレストランが爆発的に増えたのだそうです。
日本よりも物価が高い香港
2014年に香港を訪問した時には、不動産だけは別格だったものの、不動産以外の香港の物価は日本と同じか、日本より少し安いくらいの印象でした。
ところが2024年では、あらゆる物価が日本より高いです。
日本よりも安いのは交通代と携帯電話料金くらい
日本より安いのは、月額の携帯電話料金と地下鉄の初乗りくらいではないでしょうか?
携帯電話料金は、格安で100ドル(約1800円)、無制限通話ができる高いプランで500ドル(約9000円)程度なので、日本よりは安いでしょう。
また地下鉄の初乗りは5ドル(約90円)ですが、香港島から九龍へ20分くらい乗っただけで12ドル(約230円)になり、深圳との境界まで50分くらい乗ると53ドル(約950円)になります。
香港島を走る路面電車(トラム)は、どれだけ乗っても一律3ドル(約55円)ですがビックリするほど遅いです。
バスは乗車距離に応じて8ドル(約144円)から80ドル(約1440円)です。
タクシーは初乗りが2kmで27ドル(約490円)です。
外食はビックリするほど高い
シンガポールは外食費がとても高い印象がありましたが、香港は日本と同じくらいの印象を持っていました。
しかし、2024年時点では日本よりははるかに高い印象でした。
ローカル店舗で朝食を頼んだところ、コーヒーとトーストだけで34ドル(約650円)、ワンタンメンだと50ドル(約900円)、少し高めのレストランでイギリス風の朝食(Full breakfast)を注文すると100ドル(1800円)以上します。
日本だと吉野家で300円くらいの朝食がありますが、そんなに安い朝食はありません。
ちなみに、1時間くらい離れた中国本土へ行くと、10元(200円)くらいでお粥やワンタンスープなどの美味しい朝ご飯を食べられますが、香港で似たようなワンタンを頼むと40ドル(720円)するので、香港は別世界です。
日本食を海外で注文すると日本よりも高くなるのは当然ですが、香港の大戸屋で牛すき鍋定食を頼んだら186ドル(約3350円)もしました。
日本なら同じメニューを1480円で注文できますので、約2倍も差があることになります。
2022年、ニューヨークの大戸屋でホッケ焼き定食が5000円もすることがワイドショーでニュースになっていましたが、香港の大戸屋では121ドル(約2200円)でした。
さすがにニューヨークよりは安いですが、やはり日本と比べたら2倍以上の価格がします。
それでも大戸屋は満員御礼の大行列でしたので、香港の方の購買力が高いことが伺えます。
香港の大戸屋で食事をしていると、広東語がペラペラなインド系のデリバリードライバーが、同じく広東語がペラペラの東南アジア系従業員から日本食を受け取るという、とても国際的な光景を見られます。
不動産価格は世界トップクラス
街のおじいさん、おばあさんが経営しているような、雑居ビルの一角の三畳程度の不動産屋に貼ってある張り紙ですら非常に高価格です。
「9800万」とか「4800万」などと書かれているので、最初は日本円の単位で書かれているのかな?と錯覚したほどです。
全て香港ドル標記なので、日本円へ換算するには(2024年1月時点で)約18倍しなければなりません。
最も安い価格で約500万ドル(約9000万円)ほどですが、これは立地も良くなく築年数も古いオンボロのワンルームマンションのレベルです。
東京と比べて、圧倒的に高いです。
東京23区内でも5000万円あればファミリータイプの中古マンションを買えますし、地方なら300~500万円で中古の戸建てが買えます。
香港では、500万ドル(9000万円)は極狭ワンルームマンションの価格帯で、どこの不動産屋を見ても大抵は3000~5000万ドル(5.4~9億円)のファミリー向け物件が貼り出されています。
私が見た中で最も高額だったのは上記写真の9800万ドル(約17.6億円)でした。
多くの街角の不動産屋に貼ってあるということは、それだけ買う人がいるということで、それだけお金持ちがいるということです。
2023年3月9日付のYahooニュースによると、英調査会社ALTRATAの最新リポートでは、香港に居住する純資産額が最低3000万米ドル(約41億3000万円)の超富裕層(UHNW)数は1万5175人で、アジア都市で首位となったそうです(ソース)。
売却価格が高いということは、当然ながら賃貸価格も高いです。
中心部(セントラル)から地下鉄で20分くらい乗った郊外にある古めのワンルームマンション(約12平米で、日本では考えられないほど狭いです)で1万ドル(約18万円)/月でした。
香港の家は、ベッドルームとキッチンとトイレとシャワー(トイレとシャワーが一体化してます)を全部合わせて10から15平米と、日本では見たことないほど狭い物件が一般的です。
家族用の物件を見ると、安い物件でも3~4万ドル(約55~72万円)はするようでした。
日本よりも給料が高い香港
日本は30年に渡るデフレと、2022年の円安で、世界的に見ると賃金が低い国になりつつあります。
それでもアジアの国と比べるとまだ少し高く、東南アジアや中国、インドなどと比べれば何倍も開きがあります。
しかし香港人の給料は日本を追い抜いており、大卒の初任給は2万ドル(約36万円)、学校の先生など公務員であれば3.5~4万ドル(63~72万円)だそうです。
東南アジアや中国大陸にある日系企業で働く場合、日本人に月給10万円を提示しても応募してくれず、また生活のハードシップもあることから、たとえ現地採用であっても「日本人である」というだけで現地スタッフよりも高い給料をもらえます。
そして日本人は現地スタッフのマネジメント業務を担当します。
それに対して香港の日系企業では、日本人だからといって香港人スタッフよりも高い給料がもらえるわけではなく、日本人の業務内容が香港人と変わらないケースが多いです。
他のアジアの国も、日本と比較すればこの30年間で急速に物価が上昇していますので、将来的には香港のような状況になっていくかも知れません。
なお欧米へ行くと日系企業の給料は安く、高い報酬をもらうには現地企業へ採用してもらわないといけないそうです。
香港と中国本土との関係
香港と言えば少し前に世界中で大ニュースとなっていたのが、2019年から2020年にかけての香港デモと、2020年7月1日の国家安全法施行です。
初めて私が香港を訪問したのは、雨傘革命が起こった直後の2014年末でした。
当時と比べると、香港の様子がだいぶ変わっていました。
治安は良い
香港というと、コロナが始まった2020年頃まで警官とデモ隊が衝突し、催涙スプレーが撒かれている映像などが世界へ配信されたため、治安を心配される方が大勢います。
しかし2020年6月30日に香港国家安全維持法が制定され、デモは完全に鎮圧されました。
香港国家安全維持法の成立以降はデモ隊と警官の衝突などは一切発生しておらず、安心して観光できるようになりました。
本屋から中国政府批判の本が一掃される
2014年は雨傘運動が最も盛り上がっていた時期でもあって、香港の本屋は中国共産党や習近平を批判する本で溢れかえっていました。
上から目線の言い方になりますが、「中国政府も、やろうと思えばここまでやれるんだ(言論の自由を尊重できるんだ)」と驚愕したのを覚えています。
香港なので繁体字(日本語で言う旧字体)ですが、中国語で書かれた本なので、深圳経由で簡単に中国本土へ反共産党の本を持ち込めるような状況でした。
香港で最も大きい本屋として有名なのは銅鑼湾にある誠品書店という台湾資本の本屋でしたが、2014年には店の入り口の最も目立つところに反共産党の本が並べられていました。
ところが、2023年に同じ本屋へ行くと、もう政治的な本は一切置いておらず、目立つところには売れ筋のビジネスや健康書籍が並んでいました。
2015年に銅鑼湾書店の店長や株主が急に拘束されて中国本土へ拉致されたという話がありましたが、それ以降やはり一気に雰囲気が変わってしまったようです。
移民の本が増える
書店では、中国政府を批判する書籍に代わり、イギリスや台湾への移民の本をよく見かけました。
1997年の香港返還以前に生まれた香港人は、イギリスが発行するイギリス海外市民(BNO : British Nations Overseas)ビザで6ヶ月イギリスに滞在することができます。
2021年には、イギリスが中国の国家安全法施行に対抗し、BNOビザを持つ香港人に対して5年間イギリスで生活し仕事もできる特別ビザを発行することに決定しました。
この特別ビザは5年経過後も更新することができ、実質的に永久にイギリスで生活できるそうです。
もう中国政府に反抗することはできないため、移民ラッシュとなっています。
そして、海外旅行では日本が圧倒的に人気でした。
台湾系の書店だからということもありますが、香港の本屋には中国語で書かれた日本の旅行ガイドブックが山ほど陳列されていました。
世界全体のガイドブックのうち、日本のガイドブックが3分の1くらいを占めていたかもしれません。
上の写真の4倍くらいの冊数が置かれていました。
47都道府県全てのガイドブックがあったのはもちろんのこと、地元の人ですら聞いたことすらないようなマニアックな穴場観光地も豊富に紹介されていました。
例えば、東京でいえば千駄木にある旧安田楠雄邸庭園、大阪でいえば造幣局の向かいにある泉布観などです。
そのくらい、香港の方々が日本に関心を持ってくれているということで、日本人としては嬉しい限りですね。
一方、(日本の26倍もの面積があるのに)中国本土の旅行ガイドは僅か数十冊が棚の隅の方に並べられているだけでした。
語学のコーナーへ行くと、日本語の学習書籍が大きな割合をしめ、英語の学習書籍とほぼ変わらないくらいの冊数が置かれていました。
英語と日本語以外の全ての言語の合計よりも多いくらいのエリアを、日本語学習書籍だけで占めていました。
台湾の本屋ほどではありませんが、2014年と比べると日本関係の本がだいぶ増えた印象でした。
やはり、国家安全法の施行で中国離れが加速したこともあり、日本への関心が高まっているという背景はあるかも知れません。
香港の独立や中国政府の体制転換を求めない
日本の感覚と比較すると、あまりにも言論の自由が制限されていて恐怖に感じるかもしれません。
しかし、香港本土以上に統制が強い中国本土に暮らしている私だから言えるのですが、外国人がそこまで不安にならなくても大丈夫だとは思います。
香港は中国本土とは異なり、VPNへ接続しなくてもYouTubeやLINEやTwitterを自由に使えますし、特段不自由なことはありません。
もし外国人が香港の民主活動家を応援する活動をしたり、中国政府や習近平を批判する活動を大々的に行うなら、間違いなく身の危険が迫ると思います。
しかし、中国本土の在住者すらVPNやローミングを使って言いたい放題言っている状況なので、香港で生活するならそこまで神経質にならなくても大丈夫かなと個人的には思います。
中国本土では、街の至るところに「中国共産党万歳」とか「中国式の近代化で偉大な中華民族を復興させよう」とか「習近平主席の教えを実践しよう」みたいなプロパガンダのポスターが貼られているのですが、香港には一切ありません。
確かに民主化運動は鎮圧されたため中国政府批判はできないのですが、中国から香港へ入ると、共産党側も香港ではかなり遠慮しているなと感じます。
もちろん本音では香港でも「中国共産党万歳」を展開したいのだろうとは思いますが、一国二制度を打ち出している手前、外資系企業が集まる香港では無理なのだと思います。
つまり双方ともノンポリの徹底を要求されている都市という印象を受けます。
しかも香港では消費税もなく、香港から北京中央政府の上納金もない(これは私が中国人に聞いた話で、真偽の調査はできていません)そうなので、軍事面で香港は中国政府の軍隊にタダ乗りしている状況です。
中国共産党側の本音は「これだけ香港のことを特別扱いして、中国共産党は香港に遠慮してあげているのに、香港人はまだ不満があるのか?香港人は調子に乗りすぎだろう!あいつらは中国人としての自覚が足りないから調子に乗っているんだ!香港人には愛国心が足りないから愛国主義教育をやるべきだ!」だと思います。
中国本土の価値観があまりにも日本や欧米と違いすぎるので、日本や欧米から見ると香港の一国二制度は崩壊していますが、中国本土から香港へ行くと、まだ香港は中国本土とは別世界だなぁと感じます(私は共産党の肩を持っているわけではなく、ただの感想を書いているだけです)。
国家安全法の施行やコロナ禍以降、香港から大勢の外国人が出国したという話も聞きますが、香港を歩けば欧米人や東南アジア人、インド人や中東系など様々な人種・民族の人々を見かけ、多様性のある自由な雰囲気がまだまだ残っていると感じます。
物価の高さを除けば生活に何の不便もない香港
結論ですが、香港生活の問題点は物価の高さだけで、それ以外は何の問題もないと思います。
英語もよく通じますし、最近は中国語も通じるようになりました。
日本語の情報も多く、日本の製品は何でもありますので、お金の心配さえなければ安心して暮らせます。
シンガポールとは異なり、香港ではローカルのエリアへ行けば汚い場所はいくらでもありますが、日本人の生活圏内の交通機関やレストラン、ショッピングモールなどは日本と変わらないくらい清潔です。
道路も、アジアでよく遭遇するような、歩道を歩いていて後ろからバイクが突っ込んできたり、赤信号を無視する車に注意しなければならないこともなく、安全に歩けます。
大戸屋などの日本食レストランへ行けば日本人向けのフリーペーパーも置かれていて、日本人向けの美容院や病院、サークルなどが無数に紹介されています。
イオンやダイソーが至るところにあり、本当に日本と変わらない生活を過ごせます。