「国家の品格」天才数学者ラマヌジャンの故郷 クンバコナム訪問

インドにラマヌジャン(1887-1920)という天才数学者がいました。その故郷のクンバコナムという町が私の住んでいるチェンナイから300Kmほど離れた場所にあります。

電車で1泊(約7時間)で到着します。この記事では、クンバコナムと、その近郊のタンジャブールについてご紹介します。訪問したのは2019年1月頃です。夜行列車で訪問しました。

なお、クンバコナムへ訪問した時点ではラマヌジャンの生家がクンバコナムにあることを知らず、後から気がついたので、ラマヌジャンの生家自体には訪問していません。

しかし、インドの地方都市や農村の状況を知ることができる貴重な機会でしたので、その点も合わせてご紹介したいと思います。

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「国家の品格」で紹介されたラマヌジャン

ラマヌジャンは数学者の藤原正彦氏が著した『国家の品格』(2005年、新潮新書)というベストセラー新書の中で紹介されています。

私も2005年当時『国家の品格』を読んで、インドにとんでもない天才数学者がいるんだと驚いたことを覚えています。

ラマヌジャンは、「我々の百倍頭が良い」というタイプの天才ではありません。「なぜそんなことを思いつくのか見当もつかない」というタイプの天才なのです。
アインシュタインの特殊相対性理論は、アインシュタインがいなくても二年以内に誰かが発見しただろうと言われています。数学や自然科学の発見の殆どすべてには、ある種の必然性が感じられます。ところがラマヌジャンの公式群は、圧倒的に美しいのに、必然性がまるで分からないのです。

藤原正彦「国家の品格」 P168-169
ラマヌジャンは自分が見つけた公式の証明をせず、「寝ている間にナーマギリ女神が教えてくれた」とメモを残していたりしたそうです。

『国家の品格』によると、国家の発展には数学や物理といった基礎科学の発展が必要条件で、「天才の出る風土」であることが国の底力の指標であるそうです。

そして更に、天才を生み出す風土の必要条件の1つとして「美しい土地であること」が挙げられています。

藤原氏は「イギリスやアイルランドなど天才を生み出す国はみな美しいので、天才ラマヌジャンを生み出したインドも美しいはずだ」と考えてインドへやってきました。

なお、以下の引用で「マドラス」と書かれているのは現在のチェンナイのことを指します。「カルカッタ」というのは現在のコルカタのことです。

1990年代、初めてインドへ行きました。行ってみて、本当にビックリしました。とにかく汚い。マドラスへ行ってもボンベイ(ムンバイ)へ行ってもカルカッタへ行っても、街がすさまじく汚い。寺院も観光しましたが、美的情緒を刺激されるようなことは一度もなかった。

藤原正彦「国家の品格」 P166
これには私も同感します。インドの大都市は本当に超がつくほど汚いです。参考までに、私が撮ったチェンナイの街の様子をご紹介します。
チェンナイの汚い町
雨季のチェンナイ
これは特別に汚いところや特別に大きな水溜りを探したわけではなく、チェンナイの一般的な光景です。
2005年に初めて『国家の品格』を読んだときは軽く読み飛ばしていましたが、藤原氏のインドの大都市に関する感想があまりにも共感できるので、少し長くなりますが引用します。

私は散歩が好きなので、マドラスに行く前、現地に駐在経験のある商社マンに、「散歩するのにいいところはありますか」と訊いたのです。すると彼は「いや、散歩なんかする気にならないですよ。治安は悪くないのですが」と言う。「そんなことはありえない。歩くのが好きな私が、初めての国へ行ってホテルにじっとしているなんてありえない。夕方涼しくなったら1時間くらいは散歩してやろう」と内心思っていました。そして実際に繰り出したのですが、とんでもない誤算でした。
二月の夕暮れと言っても気温は三十度以上。歩道は足の踏み場に気を使うほどの不潔。道路では車やバイク、リクシャー(自転車の引く人力車)が恐ろしい騒音と埃の中でレースを展開中。その間を縫うように牛、イヌ、山羊が道路を横切る。排気ガス規制はないのか、空気を吸うのがつらいくらい。至る所に浮浪者がごろごろしている。「いやはや、大変なところに来てしまった」と、十分もたたないうちにほうほうの体でホテルに逃げ帰りました。クタクタでした。

藤原正彦「国家の品格」 P166-167

チェンナイ(旧マドラス)は今も変わらないばかりか、人口や車が増えた分だけ悪化しています。インドで外を歩くことの大変さについては下記の記事にまとめていますのでご参照ください。

藤原氏は、こんな汚いインドでラマヌジャンのような天才が出るはずがないのに、どうしてだと衝撃を受けたそうです。

どこにも美しいものがない。困りました。「数学では美的情緒がもっとも大切」「若い時に美に触れることは決定的に重要」などと言ったり書いたりしていながら、あれほど美しい公式を、インドの地で三千五百以上も発見したラマヌジャンにあてはまらないことになる。彼は二十代の前半をマドラスで過ごしているのです。私の説に対する余りにも劇的な反例です。

藤原正彦「国家の品格」 P167
そこで藤原氏は2回目の訪問時、ラマヌジャンの生まれ故郷であるクンバコナムという町を訪れました。そこで藤原氏は、今度はあまりの美しさに衝撃を受けたそうです。

周辺に、恐ろしく美しい寺院がいくつもあるのです。寒村にまでとてつもなく豪壮な美しい寺院がある。
聞いてみると、9世紀から13世紀にかけて、このあたりにはチョーラ朝と言うのがあって、この富裕な王朝の歴代の王様たちがかなり変わっていて、金に糸目を付けずに、競うように美しい寺院を造りまくったのです。
クンバコナム近くのタンジャブールで見たブリハディシュワラ寺院は、本当に息を呑むほどに壮麗でした。この寺院を見た時、私は直感的にこう思いました。「あっ、ラマヌジャンの公式のような美しさだ」と。

藤原正彦「国家の品格」 P168
私はこの本を読んだとき「そんな綺麗な場所なら、いつか行ってみたいな」と思っていました。
しかし私は、クンバコナムはもちろんマドラス(チェンナイ)という地名もあまり印象に残っておらず、インドのどこにあるのかも興味を持って確認していなかったため、すっかり忘れてしまっていました。

それから10年以上経ち、私はインドのチェンナイに住むことになりました。そして偶然にも私の同僚がラマヌジャンの故郷・クンバコナムの出身で、その同僚の新築祝いでクンバコナムと近郊のタンジャブールを訪れることになりました。

クンバコナムへ訪問した時点では、私は『国家の品格』やラマヌジャンのことは全く忘れており、「クンバコナム」という地名も記憶していなかったので、訪問したのは本当に全くの偶然です。

訪問後、クンバコナムについてネットで調べていたら「ラマヌジャンの故郷」という文章を見つけたので、突然『国家の品格』のことを思い出しました。

クンバコナムにはラマヌジャンの生家もあるのですが、訪問時点ではすっかり忘れていたので、訪問しませんでした。次回訪問する機会があれば生家も訪問したいと思います。

ブラハーディシュワラ寺院(Big Temple)

タンジャブール ブラハーディシュワラ寺院

写真は、『国家の品格』でも紹介され、藤原氏が感動したタンジャブールのブラハディーシュワラ寺院です。タンジャブールは10世紀頃にチョーラ朝という王朝が南インド全体を広く統治していた頃の首都でした。

今は南インドの中心都市はチェンナイとバンガロールですが、チェンナイが発展したのはイギリスの統治が始まった17世紀以降で、当時はチェンナイよりもタンジャブールの方が遥かに都会でした。

ブラハディーシュワラ寺院は1010年に完成した世界遺産ですが、建設された当時ではインドで最も高い建物だったらしく、高さが約66メートルあります。

タンジャブール ブラハーディシュワラ寺院

1010年は日本でいうと平安時代です。66メートルというのは今でもかなりの迫力がありますが、1000年前の人達にとっては衝撃的な高さだっただろうと思います。

ブラハーディシュワラ寺院はヒンドゥー寺院のため、当然靴を脱いで境内を歩かなければなりません。入口で靴を預けます。写真に写っているのは屋外ですが、当然裸足で歩かなければなりませんので、参観には覚悟が必要です。

参観をすると、境内でバラモンがおでこに白い粉のようなものを塗ってくれます。詳しくは分からないのですが、ブラハーディシュワラ寺院はシヴァ神を祀った寺院だそうです。

藤原氏にある通り、確かにブラハディーシュワラ寺院はチェンナイにある(ゴミゴミとした)パルタサラティ寺院カパレーシュワラ寺院に比べて非常に荘厳で美しいと感じました。

この寺院では日本人や韓国人など東アジア系の人を全く見かけなかったので、地元の修学旅行生にとって私の顔がかなり珍しかったらしく、何度も一緒に写真を撮影しました。

一方、欧米人のバックパッカーやツアーの団体客は大勢いたので、欧米人のバイタリティは凄いと思いました。

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タンジャーヴール・マラーター宮殿

クンバコナム宮殿

タンジャブール観光の目玉は、ブラハーディシュワラ寺院とマラーター宮殿です。マラーター宮殿はチョーラ朝から時代が下って、16-17世紀頃にタンジャブール周辺を治めていたナヤーカ朝の宮殿です。

平安時代頃はタンジャブールのチョーラ朝が最も大きな勢力でしたが、16世紀になると南インドで発展していたのはヴィジャヤナガル王国だったので、ナヤーカ朝はヴィジャヤナガル王国の臣下でした。

ヴィジャヤナガル王国の首都は「ハンピ」という村ですが、今でもコアなインドファンを惹きつけている場所なので、私もいつか行ってみたいと思っています。

マラータ宮殿には王様がコレクションしたと思われるブラフマンなどの神像が多数展示されています。また、シアターではタンジャブールの発展の歴史を知ることができます。タミル語ですが英語の字幕がつきます。

クンバコナム 宮殿 タワー

宮殿の外には6階建のタワーがあります。地球の歩き方は「タワーの上に登れる」と書かれていますが、タワーの上から飛び降り自殺をする人が絶えないので立入禁止になっていました。

クンバコナム近郊の農村について

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クンバコナムにも有名な寺院はありますが、今回のメインの訪問目的は同僚の新築祝いでしたのでクンバコナムの寺院には訪問しませんでした。

その代わり、同僚の家の近くにある農村を散歩させていただきました。同僚の原付の後ろに乗って案内してもらいましたが、ネットは圏外でUBERもOLAも使えず、バスも走っていないような場所でしたので非常に貴重な機会でした。

クンバコナムはチェンナイとは全く異なり農村の風景自体もとても美しく、藤原氏の言う通り確かに天才が生まれそうな雰囲気があると感じました。

日本の場合は田植えと稲刈りのシーズが決まっていますが、タミルナドゥ州では1年中やっているようで、田植えをしたばかりの田んぼの隣に稲刈り直前の田んぼがありました。稲の種類によってシーズンが違うのか何なのか、素人の私には全く分かりませんが興味深い光景でした。

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同僚の親戚が農家をやっていました。親戚の方自体はタミル語しか話せないようだったので、同僚に英語へ通訳してもらって話をすることができました。

今は稲刈りを機械で行っていますが、4~5年前までは全て手作業または牛によって行っていたそうです。農村へ来ると、都会以上にインドが急速に発展していることを感じます。

失礼な話ですが、「今は物置にしてるけど、数年前まであそこで寝泊まりしていた」という藁ぶき屋根の家を見ると、明治時代の農村の写真と同じような家でした。

それが今や中国製のスマートフォンを使いながらトラクターを動かしているのですから、この発展は本当に急速なのだと感じます。

親戚の農家の方からは「日本にも田んぼや畑はあるのか?」と聞かれました。そこで日本の田舎の写真を見せると、とても驚いていました。

日本といえば東京のイメージが強く、日本全体が新宿や渋谷のような感じなのだと思っていたようでした。

クンバコナムではアヒルの群れを見ることができました。

この流れを見て朝の新宿駅を思い出しました。

インドの新築祝いについて

新築祝いはインド英語で”Warming Function”と言うそうです。以前、結婚式のことを"Engage Function"と呼んでいるのを聞いたことがありますが、式典には"Function"という単語を使うです。それがインド全体なのかタミルナドゥ州限定なのかは分かりません。

この新築祝いは、親せきや友人を呼んでワイワイ食事をするというレベルではなく、冠婚葬祭に匹敵する重要な儀式です。

今回新築祝いをする同僚は職場のメンバーに1人ずつ結婚式の招待状と同じくらい立派な招待状を渡していました。

タミル語で書かれていたため全く読めませんでしたが、聞くと午前4時からプジャ(式典)が開始されるそうです。

午前4時という時間帯にはビックリしましたが、インドでは(タミルナドゥ州では?)新築のプジャは日の出前にする決まりなのだそうです。

結婚式の招待状のように立派な招待状を頂いたので、私は出欠連絡をしなければならないと思ったのですが、周りのインド人に聞くと出欠の返事などは必要なく、「プジャにわざわざ職場の同僚が来るとは思っていないけど、渡すのがマナーだから渡してるだけで、気にしなくて良い」ということでした。実際、職場の同僚で新築祝い当日に顔を出したのは私ともう1人だけでした。

そして、私は「参加するからには午前4時に行かなければいけない」と思っていたのですが、別の同僚に聞くと家族と親戚以外で午前4時から行く人はおらず、友人や同僚は午前9時頃から参加するのが一般的なのだそうです(プジャーに部外者が来られると逆に困るそうです)。

「招待はされるけど、それには参加せず4時間遅れで行くのがマナー」というのは外国人には全く分からない習慣なので戸惑いました。

インドの冠婚葬祭のマナーは字面通りに受け取ってはならず、慣れない外国人には訳が分からないので、疑問点は片っ端から細かくインド人に確認をしていった方が良いです。

さて、同僚の家に着くと、既に式典は終わっており親戚や知人が団欒をしていました。30人くらい集まっていたかも知れません。

外国人の私が突然現れたので、事前に知っていた家族以外はかなりビックリしたようでしたが、歓待して頂きお昼をご馳走になりました。

大都市とは違う一面を持つ地方のインド

地方都市や農村を訪れると、汚くてウンザリする大都市とは違うインドの一面を知ることができます。

藤原氏が言う通り、タンジャブールやクンバコナムはとても綺麗な場所なので、ありきたりの観光コースに満足できない方、インドをもっと深く知りたい方にはとてもお勧めです。

南インドなのでとても治安が良く、みんな親切ですし、鉄道で行くことができるのでバックパッカーの方にとってもアクセスしやすいです。

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