十字架

「インド人のお墓」というと、火葬をしたあとガンジス河に遺灰を散骨するというイメージが強いと思います。

そして「インド人のお墓」について検索しても、ほぼガンジス河での火葬と散骨に関する情報しか見当たりません。

私は実際にバラナシ(ヒンドゥー教の聖地で、ガンジス河へ遺灰を流す前の火葬場がある場所)へ行き、火葬の様子や河へ遺灰を流す様子を見学しました。そのときの様子については下記記事をご参照ください。

 

しかし、必ずしも全てのヒンドゥー教徒の遺骨がガンジス河へ流されるわけではありません。そこでこの記事では、インドでの埋葬方法と周辺諸国への影響についてご紹介します。

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ヒンドゥー教徒が全員火葬されてガンジス河へ流されるわけではない

バラナシを訪れた際に現地のインド人から聞いた話では、バラナシで1日に火葬される人数は300名程度なのだそうです。

仮に1日に300名が火葬されるとして、1年にバラナシで火葬される人数は約11万人です。

年間11万人しか火葬できないというのであれば、とてもインド全体のヒンドゥー教徒の火葬は到底間に合いません。

試しに、毎年インドのヒンドゥー教徒が何名亡くなっているのかを計算してみます。

まず、2017年のインド人の死亡率は1000人中7.3人とされています。(参考URL India death rate

一方、2017年のインドの人口は13.4億人です。(参考URLIndia-Population 2017

インド人全体に占めるヒンドゥー教徒の割合は79.8%です。(参考URL JETRO インド 概況 2019年6月24日更新

※2017年の情報が見つからなかったので2011年の情報ですが、そんなに大きくは変わらないはずです。

これらをかけ合わせると

13.4億人 × 7.3/1000 × 79.8% = 約780万人 

となるため、毎年インド全体で約780万人のヒンドゥー教徒が亡くなっていると想定できます。そんなに大勢の人が全員バラナシへ来たら大混乱になります。

そもそも、こんな面倒な試算をしなくても、インドはとてつもなく広いのでインド中のヒンドゥー教徒全員がバラナシへ行くなど到底考えられません。

飛行機や鉄道のある今ですら、私の住んでいるチェンナイからバラナシへ行くのはかなり時間がかかります。 

ましてや昔は一般のインド人には徒歩という選択肢かありませんでした。50歳を過ぎたら家族と永遠の別れを告げて徒歩で何千キロも歩いてガンジス河を目指す人も少なくなかったそうですが、予想外のタイミングで突然亡くなることもありますし、現実的に考えて全員が全員目指していたというのは有り得ません。

インドで見かけるキリスト教徒のお墓 

私が車に乗っていると、町中でお墓を見かけることはあります。畑の真ん中に密集したお墓を見かけることもあります。

しかし、これは例外なくキリスト教徒の墓で十字架が建てられています。ヒンドゥー教徒の墓というのは見たことがありません。

キリスト教徒は、「復活の日」に全ての人が復活するため、その時までお墓の中で身体を大切に保管しなければならないということで、土葬をしなければならないのだそうです。

イスラム教徒も同じで、終末のときに肉体がないと困ったことになるため土葬をします。

※しかし、まだイスラム教徒の墓は見かけたことがありません。私の住んでいるチェンナイにも7%くらいはイスラム教徒がいるので必ずどこかにあるはずですが、私が墓だと気づいていないだけかも知れません。

アジアの中でもマレーシア、インドネシア、バングラディッシュ、パキスタンなどイスラム教徒の多い国は同じように土葬されます。

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お墓を作らないヒンドゥー教徒

そこで知人のヒンドゥー教徒に、このあたりの事情について聞いてみました。

全てのヒンドゥー教徒がバラナシへ行くわけではないんですよね?

知人
バラナシへ行くのは強制(Mandatory)ではなく任意(Optional)なので、別にバラナシへ行く必要はないです。ただ死後バラナシでガンジス河へ遺灰を流すと(死後に生まれ変わらないという)メリットがあるのでバラナシへ行く人はいますね。

バラナシへ行かないヒンドゥー教徒の遺体は死後どうするんですか?

知人
これはとても複雑で、地域によってもカーストによっても全くバラバラで決まった方法はありません。火葬した後、地域で決められた河に流したり近くに散骨することもありますし、土葬のまま埋めることもあります。 

土葬のまま埋めるということは、お墓を立てるということですか?私はインドでキリスト教徒以外の墓は見たことがありません。

知人
墓は立てません。火葬・土葬など色々な死体処理方法がありますが、ヒンドゥー教徒で墓を立てるというのは聞いたことがないです。ヒンドゥー教徒を土葬する場合は、埋めた後にどこへ埋めたのか印は残しませんので、埋めた場所を特定するのは不可能です。棺などもなく、ただ土に埋めるだけです。死者を埋める場所はだいたい決まっているので、「村の中でだいたいこのあたり」というのは何となく分かりますが…

インド人は輪廻転生(死んだ後に何度も生まれ変わること)を信じているため、死んだ後に魂は次の肉体に宿っていると考え、魂が抜けた後の肉体や骨にはあまり重要性を感じないそうです。 

これはインド人から聞いた話ではなく私の勝手な推測ですが、「死後の肉体はどうでも良いが、かと言ってその辺に放置していても衛生上よくないので、埋めたり火葬して散骨したりしているのではないか・・・」と感じます。

ところで、インド人は今でも本当に輪廻転生を信じてるんですか?

知人
もちろん全員とは断言できませんが、普通のインド人の感覚では輪廻転生はありますね。人が亡くなった後に知人や親戚で赤ちゃんが誕生すると、「あの亡くなった人の生まれ変わりじゃないか」という話になりますね。(その程度の話なら日本でも聞く気がしますが)

仏教にも本来墓はない 

仏教は紀元前五世紀にインドで生まれた宗教で、当時インドで流行していたバラモン教を批判して成立したものです。

現在インドで多数派を占めるヒンドゥー教とは兄弟のような関係で、仏教とヒンドゥー教には共通するところが多くあります。

その1つが死後の遺体処理に関することで、仏教も基本的にはお墓を作りません。 

実際、今でも仏教が信仰されているスリランカ、ミャンマー、タイなどではお墓を作らず散骨しますし、チベットでも(鳥に遺体を食べさせる)鳥葬をしています。

日本で仏教と言えば「葬式と墓」というイメージなので、タイやミャンマーのような仏教国で墓を作らないということを初めて聞いた時は非常に驚きました。

 しかし本来の仏教は生きている人が悟りを開くための方法を教えていたので、日本の葬式仏教はインドの仏教からは大幅に変わっています。

この原因は日本へ仏教が伝わった経緯によるそうです。

仏教の伝搬

中国の仏教

少し分かりにくい図で申し訳ございませんが、上の図は下記のようになっています。

緑:初期仏教を比較的忠実に守っている国(上座部仏教、南伝仏教)

黄:初期仏教とは異なる考え方の仏教が伝わった国(大乗仏教、北伝仏教)

青:インド最末期の仏教が伝わった国(チベット仏教)

中国は国内の状況が複雑で、1つ目の図で表せなかったので2枚目の地図で中国の状況を示しています。また中国国内でも雲南省などの少数民族の一部は南伝仏教を信仰していますが、そこまで示せませんでした。

この地図は、以下のようにも言い換えられます。

緑:土葬で埋葬または散骨(墓を立てない)

黄:墓を立てて大切にする

青:鳥葬(墓を立てる)

南伝仏教(緑)はインドからスリランカ経由で伝わりました。

北伝仏教(黄)はインドからアフガニスタンや中央アジア、新疆ウイグル自治区を伝って中国へ伝わりました。

チベット仏教(青)は、インドから仏教が消滅する寸前にヒマラヤを超えて仏教徒がチベットへ逃れたため、最末期のインド仏教を残しているそうです。

なお、インド本体からはほぼ仏教は消滅しています。

さて、仏教は本来死後に生まれ変わる輪廻転生を前提に考えられているため、死後の先祖の遺骨を大切にするという日本仏教の考え方は本来からはかなりズレています。

日本の仏教でお墓を大事にするのは、仏教が中国へ伝わったときに、中国にもともと存在していた先祖崇拝の考え方の影響を受けたものだそうです。

 従って、中国から影響を受けた韓国、ベトナム、日本などの仏教では(タイやミャンマーと異なり)お墓を作って先祖を大切にします。

隣同士の国でも、ラオスやカンボジアはスリランカ経由の仏教を信仰しているのに対し、ベトナムは中央アジア・中国経由の仏教を信仰しているため文化が全く異なります。

死後の遺体処理方法が、それぞれの国・地域の宗教観をダイレクトに反映しているのがとても興味深いと感じました。

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